【続報】非上場株式の評価見直し、医療法人の出資持分はどうなる?――8月20日に国税庁が示した検討案
持分あり医療法人の理事長にとって、「自分が持っている出資持分の評価額がいくらになるか」は、相続税・贈与税、そして承継のかたちを左右する大きな問題です。いま国税庁の有識者会議で、その評価のもとになる「取引相場のない株式(非上場株式)」の計算方法の見直しが議論されていて、2026年8月20日に、国税庁が具体的な検討案を示しました。この見直しについては前回の記事でも取り上げており、今回はその続報として、医療法人の出資持分に焦点を当てて整理します。
この記事では、①8月20日の資料で評価方法の方向性としてどのようなことが示されたのか、②その見直しが前回取り上げたMS法人の株式評価とどう関係するのか、③医療法人の出資持分にどう関係し得るのか、④承継や認定医療法人への移行をどう考えればよいのか、という4点に整理します。なお、本記事は2026年8月31日時点で公表されている情報にもとづくもので、見直しはまだ検討案の段階であり、結論は出ていないことにご留意ください。
この記事のポイント ● 8月20日の第5回有識者会議で、国税庁が規模区分の廃止や類似業種比準方式の見直しなど、評価体系に関わる検討案を資料として示した(最終決定ではない) ● 医療法人の出資は、現状財産評価基本通達194-2により取引相場のない株式の評価規定を準用している。このため、残余利益方式が新たな原則的評価方式として採用された場合、通常の持分あり医療法人も、基本的には同方式を基礎として評価される可能性が高い。ただし、医療法人固有の読み替えや調整方法は未定 ● 現行の評価額との比較はまだできない段階。試算のための基礎資料(簿価純資産・過去の利益・出資者構成など)を整理しておくのが現実的
1. 8月20日に示された評価方法の方向性
昭和39年の財産評価基本通達制定時から続く評価体系の骨格を含め、大幅な見直しが議論されています。第5回(8月20日)で国税庁は、次のような検討案を自ら資料として示しました。委員間で合意・決定した内容ではなく、あくまで議論のための一つの案です。
・会社規模による区分(大会社・中会社・小会社)を廃止し、規模に関わらず広範な企業を共通の方式で評価できないかと提案
・類似業種比準方式について「理論的な根拠や実証的な裏付けが乏しい」として、存置は困難ではないかとの考え方を提示
・純資産価額方式について、原則的な評価方式ではなく、特定の評価会社向けの方式として位置づけてはどうかと提案
・仮に採用する場合の評価イメージとして、企業の収益力を反映した「残余利益方式(簿価純資産ベース)」を提示
国税庁の公表資料では、残余利益方式について「簿価純資産±数年分の残余利益」という基本的なイメージが示されています。さらに、週刊税務通信No.3914が取材により把握した国税庁の検討案によると、計算イメージは、①直前期末の簿価純資産に、②5年分の残余利益の現在価値を加算し、③時価の算定として適正な範囲で設定する「しんしゃく率」を乗じるというものです。ここでいう残余利益は、実際の利益から、簿価純資産に株主が通常期待する収益率(還元率)を掛けた額を差し引いた差額です。実際の利益が期待収益を上回ればプラス、下回ればマイナスとなります。税務通信の報道では、還元率は上場株式を基準に算定し、簿価純資産には税務上の簿価を使用する考えとされています。5年という期間、還元率、しんしゃく率を含め、いずれも検討段階であり、確定した算式ではありません。
また、国税庁の公表資料では、継続使用を前提とする事業用土地等を帳簿価格で捉え、過去数年間の利益を用いることで、現行の純資産価額方式より評価作業を簡素化できる可能性が示されています。ただし、しんしゃく率や還元率の具体的な数値、正常利益の調整方法その他の細目は未定です。
ここまでで分かっていること
・規模区分の廃止、類似業種比準方式の見直し、収益力(インカムアプローチ)を重視する方向性を検討案として提示
・税務通信の取材報道では、簿価純資産に5年分の残余利益の現在価値を加算し、しんしゃく率を乗じる具体的な計算イメージが報じられている
まだ分かっていないこと
・最終的にどの評価方式を採用するか
・しんしゃく率・還元率の具体的な数値、残余利益の算定方法の細目
・財産評価基本通達194-2における医療法人固有の読み替え・調整方法及び純資産価額方式の対象となる医療法人の判定基準
・施行時期・経過措置の有無
・税務通信が報じた検討案が、今後の有識者会議や通達改正の過程でどこまで維持されるか
2. 前回の記事(MS法人の株式評価)との関係
前回の記事では、同じ見直しが院長個人の持つMS法人の株式にどう影響しうるかを整理しました。今回はその続報として、医療法人そのものの「出資持分」(理事長が持つ持分)にどう関係し得るかを見ていきます。同じ一つの評価見直しが、MS法人の株式と医療法人の出資持分という二つの財産に、それぞれ形を変えて及びうる関係にあります。
3. 医療法人の出資持分ではどうか
持分あり医療法人の出資は、財産評価基本通達194-2により、取引相場のない株式に関する一定の評価規定に準じて評価します。株式会社の株式と全く同じ算式をそのまま使うわけではなく、現行の類似業種比準方式では業種目を「その他の産業」とするなど、医療法人固有の読み替えが設けられています。
そのため、今回検討されている残余利益方式が非上場株式の新たな原則的評価方式として採用された場合、通常の持分あり医療法人についても、基本的には同方式を基礎として出資持分を評価することになる可能性が高いと考えられます。194-2が非上場株式の評価体系を準用する仕組みだからです。
一方、8月20日の資料では、現行の純資産価額方式は原則的評価方式ではなく、「特定の評価会社」の株式を評価する方式として位置付ける方向が示されています。したがって、医療法人だから一律に純資産価額方式になるわけではなく、医療法人でも、今後定められる純資産価額方式の対象類型に該当する場合に、その方式が適用されるという整理が自然です。これは、現行の「特定の評価会社」に相当する医療法人を想定したものですが、その範囲や判定基準はまだ示されていません。
なお、残余利益方式は簿価純資産を計算の出発点としますが、簿価純資産に数年分の残余利益を加算又は減算する方式です。資産を原則として相続税評価額に置き換え、一定の負債や法人税額等相当額を控除する現行の純資産価額方式とは異なります。また、残余利益方式の採用自体はまだ検討段階であり、医療法人固有の読み替えや調整方法、純資産価額方式の対象となる医療法人の判定基準、施行時期も示されていません。
現時点で、各医療法人の評価額が現行方式より上がるか下がるかは判断できません。ただし、残余利益方式が新たな原則的評価方式として採用された場合には、通常の持分あり医療法人にも同方式が準用される可能性が高く、簿価純資産に対する収益力によって評価額が上下する構造になると考えられます。
現状想定されている計算式の構造では、実際の利益が期待収益(簿価純資産に還元率を掛けた額)を上回る収益力の高い法人は、残余利益がプラスとなり、簿価純資産を上回る評価額になり得ます。反対に、利益が期待収益を下回る、あるいは赤字の法人は、残余利益がマイナスとなり、簿価純資産を下回る評価額になり得ます。ただし、これはあくまで仮案での評価額が簿価純資産を基準にどう動くかという構造であって、各法人の現行の税務上の出資評価額との高低を示すものではありません。
医療法人の区分別に、想定される評価方式を整理すると、次のようになります。
医療法人の区分 | 想定される評価方式 | 留意点 |
純資産価額方式の対象類型に該当しない持分あり医療法人 | 残余利益方式となる可能性が高い | 医療法人固有の読み替え・調整は未定 |
純資産価額方式の対象類型に該当する医療法人 | 純資産価額方式となる可能性 | 現行の「特定の評価会社」に相当する類型を想定。該当範囲・判定基準は未定 |
4. 承継・認定医療法人への移行をどう考えるか
持分あり医療法人では、出資持分の払戻しや相続が経営の重荷になりやすく、その対応策の一つが「持分なし医療法人」への移行です。この移行を支援する仕組みとして、認定医療法人制度があります。認定医療法人制度では、一定の要件と手続の下で、出資者側の相続税・贈与税について納税猶予・免除等を受けられる場合があります。また、持分の放棄により医療法人が経済的利益を受けた場合に生じ得る贈与税についても、認定医療法人には課税の特例があります。本制度を利用するには、令和11年(2029年)12月31日までに移行計画の認定を受ける必要があります。今回の評価方法の変更の有無にかかわらず、活用の検討が未済である場合は、一度ご検討いただくことをお勧めします。
移行を判断する際に確認しておきたい観点は、評価額だけではありません。
・出資者全員の意向と、持分放棄への同意
・払戻請求権・残余財産分配請求権を失うことの経済的な意味
・認定要件を満たし、移行後も6年間は要件を維持できるか(役員報酬や関係者取引等)
・後継者、社員・理事の構成
・相続税だけでなく、医療法人側の課税関係
まず現行方式による出資評価額を把握し、併せて簿価純資産、過去数年の利益推移と主な非経常損益、土地等の含み益、出資者構成を整理しておけば、今後具体的な改正案が示された際に比較しやすくなります。ただし、評価方法の見直しだけを理由に、持分放棄や承継を急ぐべきではありません。
まとめ
医療法人の出資持分の評価は、承継と相続税に直結するテーマです。8月20日に国税庁が示したのは決定事項ではなく、規模区分の廃止や収益力を重視した新方式など、従来より具体的になった検討案です。
194-2が取引相場のない株式の評価規定を準用している以上、残余利益方式が新たな原則的評価方式となれば、通常の持分あり医療法人にも同方式が及ぶ可能性が高いと考えられます。ただし、医療法人固有の調整方法や、純資産価額方式の対象となる医療法人の範囲などは、今後の通達改正案を確認する必要があります。
今できることは、①現行方式による出資評価額を計算する、②簿価純資産・過去3〜5年程度の利益推移・非経常損益・含み益の大きい資産を把握する、③出資者構成や相続・払戻しのリスク、認定医療法人の要件適合性を確認する、④具体的な改正案が公表された段階で新旧を比較する、という順番で基礎資料を整えておくことです。評価方法の見直しを理由に慌てて動くのではなく、落ち着いて数字を揃えておくことをおすすめします。
執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)
注記:本記事は2026年8月31日時点で公表されている国税庁の有識者会議資料等にもとづく一般的な情報提供です。同日現在、第5回有識者会議の議事要旨は公表準備中であり、本記事は公表済みの会議資料を中心に整理しています。評価方式の一本化、類似業種比準方式の廃止、新しい算式、施行時期、経過措置の有無・内容は、いずれも未定です。また、同資料には医療法人の出資評価に関する具体的な改正案は示されていません。現行の194-2による準用関係からは、新たな原則的評価方式が通常の持分あり医療法人にも及ぶ可能性が高いと考えられますが、これは現時点の検討資料と現行通達に基づく推測であり、確定した取扱いではありません。出資持分の評価や承継・移行の有利・不利は、法人の資産構成・収益状況、出資者の構成などにより個別に異なります。実行にあたっては、税理士等による個別の評価と税額シミュレーションが必要です。
参考
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」開催状況:https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm
取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)資料(2026年8月20日):https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260820/pdf/05shiryo_kabukaigi.pdf
財産評価基本通達194-2(医療法人の出資の評価)|国税庁:https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/08/06.htm
医療法人の出資を類似業種比準方式により評価する場合の業種目の判定等|国税庁:https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/13/02.htm
持分の定めのない医療法人への移行計画の認定申請について|厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000205627.html
「持分なし医療法人」への移行に関する手引書~移行促進税制を中心として~(令和8年3月改訂)|厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000940229.pdf
週刊税務通信 No.3914(2026年8月31日)「国税庁の非上場株評価見直し案が判明―残余利益方式の計算式や影響等を取材」


