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持分あり医療法人の出資、新しい計算式で評価はどう変わる?――国税庁が9月16日に示した算式と、上がる・下がるの分かれ目

10月2日
読了時間: 8分

「新しい評価方法になると、うちの法人の出資、相続税の評価額にするといくらになるのか」

 9月16日、国税庁の有識者会議(第6回)で、非上場株式の評価見直しの計算式と実データによる影響試算が示されました。現段階では、株式会社等を念頭に置いた検討案で、医療法人固有の読み替えはまだ公表されていません。この記事では、その算式を配当ゼロの持分あり医療法人に当てはめた当事務所の見立てを整理します。

この記事のポイント ● 算式そのものが公表され、法人税申告書を入口に概算できる形になりました。ただし使うのは課税時期前5年の正常利益で、評価額を左右する還元率としんしゃく率はまだ決まっていません ● 上がるか下がるかの分かれ目は、会社規模の区分ではなく純資産に対する正常利益の水準です。現行で「比準要素数1の会社」に当たる、純資産はあるのに赤字が続く法人では、新方式で評価が下がる可能性があります ● 役員退職金やオペレーティングリースといった直前対策の評価効果に、補正を加える案が示されています

1. 法人税申告書を入口に概算できる算式が示された

 示された算式(残余利益方式)は次のとおりです。 「直前期末の簿価純資産」に「5年分の『残余利益』の現在価値」を足し、最後に「しんしゃく率」を掛けます。

評価額 = { D₀ + RI₁÷(1+r) + RI₂÷(1+r)² + RI₃÷(1+r)³ + RI₄÷(1+r)⁴ + RI₅÷(1+r)⁵ }× しんしゃく率 各期の残余利益(RI)= C -(前期末の簿価純資産 × r) 各期末の簿価純資産 = 前期末の簿価純資産 + C - B

表1 算式に入る数字と、いま決まっているかどうか

記号

中身

現時点

D₀

直前期末の簿価純資産(別表五(一)の利益積立金+資本金等)

申告書から確認できる

C

課税時期前5年の年平均正常利益(別表四等が基礎、非経常損益を調整)

申告書を基礎に算出。調整計算が必要

B

課税時期前5年の年平均配当金額

医療法人はゼロ(医療法54条)

r

還元率(株主が通常期待する収益率)

未定

しんしゃく率

時価として適正な範囲で設定する割合

未定


残余利益は「純資産に見合う以上に稼いだ分」

 簿価純資産は、出資金にこれまでの利益の積み上げ(利益積立金)を足したものです。 積み上げた利益も出資者のものなので、出資者は純資産全体に対して毎年一定の利回り(還元率)は稼いでほしいと考えます。純資産を100、還元率を仮に8%とすると、年8が「稼いで当たり前」の水準です。 利益が10なら2は超過利益、逆に5なら3の利益不足となりますが、この差を国税庁の資料では「残余利益」と呼んでいます。評価額は、純資産にこの残余利益を5年分足したもので、先の年ほど少し目減りさせるのが「現在価値」の意味です。

 計算の土台を会計基準ではなく法人税申告書に統一したのが、実務上の大きな変化です。ただし C は単年度の利益ではなく、非経常的な損益を調整した5年平均の正常利益です(12か月に満たない事業年度は12か月相当に換算)。概算はできても、この調整が要るため、確定した評価額がそのまま出るわけではありません。

 また、還元率 r としんしゃく率は第7回以降に持ち越されており、決まらない限り個々の法人の評価額は確定しません。


2. 分かれ目は純資産に対する利益の水準。赤字が続く法人は下がる可能性

 新方式の評価額が簿価純資産を上回るか下回るかは、超過利益が出ているかどうかで決まります。 医療法人は医療法54条で剰余金の配当が禁じられているため、この算式では配当 B がゼロになり、利益 C がそのまま予測純資産に積み上がります。そのぶん、翌期以降の「稼いで当たり前」の水準(簿価純資産×r)も上がります。ただし、肝心のr(還元率)が未定なので、自法人がどちらに出るかはまだ言えません。

 国税庁は、申告データ1,378社分で、還元率8%などを仮定して影響を試算しています。

表2 国税庁の実データ試算(現行の申告評価額を100とした場合の増減率/しんしゃく率別)

区分

しんしゃく率1.0

0.9

0.8

0.7

全体(n=1,378)

+28.1%

+15.2%

+2.3%

▲10.4%

大会社(n=128)

+114.7%

+93.2%

+71.7%

+50.3%

中会社(n=820)

+40.2%

+26.1%

+12.1%

▲1.9%

小会社(n=430)

▲1.9%

▲12.0%

▲21.8%

▲31.6%

※現行評価額の中央値と残余利益方式による評価額の中央値を比較した率であり、各社の増減率の中央値ではありません。完全子会社株式の修正等の個別調整は考慮されておらず、対象は一般の企業で、医療法人だけのデータではありません。会社数でみると、しんしゃく率0.8の場合に評価額が現行以下となるのは大会社で24.2%、小会社で67.9%でした(出典:国税庁第6回資料)。

 評価が下がりそうなのは、現行で「比準要素数1の会社」に当たる医療法人です。 医療法人の出資は、配当を除いた利益と純資産の2要素で類似業種と比べます。直近で赤字が続き、利益の要素が直前期末・直前々期末の両方の基準で0になるなど、通達194-2の要件を満たすとこの区分に当たります。純資産はあるのに利益が出ていない法人で、現行では原則として純資産価額(資産を相続税評価額に置き換えた額)で評価され(類似業種比準価額25%の併用も可)、収益力の低さはほとんど反映されません。

 第6回の「特定の評価会社」案に比準要素数1は入っておらず、新方式の評価額は基本的に「簿価純資産+5年分の超過利益」になります。直近で赤字が続いていれば、5年平均の利益も「稼いで当たり前」の水準を下回りやすく、超過利益はマイナスになって、新方式の評価額は簿価純資産を下回ります。国税庁も第5回資料で、赤字又は低収益の企業は「簿価純資産以下の評価額」になるとしており、現行より下がる可能性は十分あります。ただし、簿価純資産を下回ることと、現行の評価額を下回ることは別の話です。相続税評価額ベースの純資産価額と簿価純資産の大小、25%併用の有無、rやしんしゃく率で、現行との増減は変わります。

 また、5年平均で見るので、赤字が直近だけでそれ以前に十分な利益があれば話は変わります。開業後5年未満の法人は後述のとおり対象外となる案で、医療法人の読み替えの決まり方によっても結論は変わり得ます。

 反対に、利益水準の高い法人は簿価純資産を超える評価もあり得ます。現行の純資産価額による実質的な上限を残すかどうかも未決定です。


3. 直前対策の評価効果に補正を加える案

 また、従来評価額を圧縮する手法としてよく用いられてきたものに対しての対応方針も示されました。

・役員退職金:一時的な支払いは非経常的な損失として正常利益から除く方向です。一方、支払済みの退職金で減った純資産までは戻さない案で、評価引下げ効果がすべて消えるわけではありません

・オペレーティングリース:こちらは損益だけでなく純資産も、取引がなかったものとして引き直す案です

・親族役員への過大な役員報酬:経営の対価を超える部分を利益に戻す案です。ただし国税庁自身も、損金不算入規定との重複や適正額の決め方を課題に挙げています

・開業後5年未満の法人:純資産価額方式で評価する案で、現行の「3年未満」から伸びます。ただし医療法人の開業日の判定や、法人成り前の個人診療所の実績の扱いは未定で、純資産価額方式の計算内容も検討中です

 これらはまだ検討案で、同じ9月16日には経済産業省・中小企業庁が、事業承継への支障を懸念して慎重な検討を求めており、国税庁案がこのまま通るとは限りません。

 上記の評価方法の変更の有無に限らず、持分なし医療法人への移行は相続税の対策の観点から一度検討する価値があります。認定医療法人制度の移行計画は令和11年(2029年)12月31日までに認定を受ける必要があります(移行完了の期限ではありません)。ただし持分を放棄すれば、その財産そのものを手放すことになり、各出資者との調整も要る個別判断です。



まとめ

 評価見直しは9月16日の資料で「算式」の段階に進みましたが、還元率としんしゃく率は未定です。現行の通達194-2は株式評価の規定を準用する形なので、医療法人の出資には改正後の準用条項と読み替えの公表を待つ必要があります。いまできるのは、自法人の別表五(一)と過去5年の別表四を並べ、純資産に対する利益の水準と、現行で比準要素数1の会社に当たるかどうかを確認することです。


執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)

※本記事は2026年10月2日時点で公表されている国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第6回資料(2026年9月16日)等にもとづく一般的な情報提供です。同日時点で第6回の議事要旨は作成中、第7回は未開催であり、内容は決定事項ではありません。還元率・しんしゃく率の具体的な数値、施行時期、経過措置の有無、医療法人固有の読み替え、純資産価額方式の対象となる医療法人の判定基準および計算内容は、いずれも未定です。本文の医療法人への当てはめは、株式会社等を念頭に置いた検討算式を配当ゼロの持分あり医療法人に仮に当てはめた当事務所の見立てです。算式から得られるのは法人全体の出資価値で、出資者ごとの持分価額ではありません。出資額限度法人など権利内容の異なる法人には、そのまま当てはめられません。実際の評価・税額シミュレーションは、税理士等による個別の検討が必要です。


参考資料


 
 
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