クリニックの設備投資 税抜経理と税込経理どちらを選択するか
- 8月7日
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更新日:2 時間前
保険診療が非課税である以上、設備投資で払った消費税の一部は控除できず、コスト(いわゆる「損税」)として医院に残ります。この記事は損税の具体的な説明より、「自院の設備投資で、税抜経理と税込経理のどちらを選択すべきか」という観点で、①控除対象外消費税の損金への落ち方、②少額資産(40万円)の判定、③償却資産税の3つを検討します。
なお、保険診療の消費税負担には、診療報酬の中に補填分が織り込まれているという政策的な手当てがあります。ただし損益計算上は診療報酬収入に溶け込んでいて、補填分だけを取り出して意識する場面は多くありません。本稿は設備投資の経理方式に絞って整理します。
この記事のポイント ● 損税の話が効くのは「原則課税」のときです。免税・簡易課税・2割特例では、設備投資と消費税の関係そのものが変わります。 ● 税抜経理と税込経理で、納める消費税額は同じです。変わるのは、①控除対象外消費税の損金への落ち方、②少額資産の判定、③償却資産税の3点です。 ● 建物や内装のように耐用年数の長い資産を買うほど、税抜経理が有利になりやすくなります。ただし答えは資産と自院の状況しだいで、経理方式は全取引に一貫適用が原則です。
1. 前提―まず自院の消費税上の立場を確認する
はじめに、自院が消費税のうえでどの立場かを確認してください。立場によって、以下の比較が当てはまるかどうかが変わります。
・免税事業者:税込経理方式によるため、税抜・税込の比較そのものが当てはまりません。
・簡易課税・2割特例の課税事業者:実際の設備投資額を基礎とする控除対象外消費税額等の20万円判定・繰延消費税額等の説明(第2章)は当てはまりません。一方、課税事業者として税抜経理を採用できるため、少額資産の10・20・40万円未満判定(第3章)、固定資産の取得価額・償却資産税(第4章)の比較は当てはまります。
・原則課税の課税事業者:第2章から第4章までの比較が、すべて当てはまります。
保険診療が中心の医院は課税売上割合が低く、設備投資で払った消費税の多くが控除できずに「控除対象外消費税額等」として残ります。これをどう費用にしていくかが、経理方式によって変わります(国税庁タックスアンサー No.6921)。
2. 論点①―控除対象外消費税の「損金への落ち方」が変わる(原則課税の場合)
この章は、原則課税の場合の説明です。同じ設備を買っても、控除対象外消費税がいつ費用になるかは経理方式で変わります。
税込経理 | 税抜経理 | |
|---|---|---|
消費税相当額の会計処理 | 本体の取得価額に含める | 控除対象外消費税額等として独立させる |
費用への落ち方 | 本体の耐用年数で減価償却 | ①一の資産に係る控除対象外消費税額等が20万円未満→その年度に即時損金(要件あり)②それ以外→繰延消費税額等(原則6事業年度で損金)又は取得価額に算入 |
※上表は、資産に係る控除対象外消費税額等の扱いです。経費に係る控除対象外消費税額等は、資産のような繰延・取得価額算入の対象にはならず、原則としてその課税期間の損金になります(国税庁タックスアンサー No.6921)。
大きく影響を受けるのは、建物・内装のように耐用年数の長い資産です。税込経理だと消費税分が長い耐用年数(内装なら十数年など)をかけてしか費用になりませんが、税抜経理で繰延にすれば原則6事業年度で経費化ができます。つまり、長い資産ほど税抜経理のほうが早く費用化できることが多くなります。
一方、耐用年数の短い医療機器では、税込経理でも比較的早く償却されるため、繰延との差は小さくなります。「税抜経理なら早期費用化の面で必ず有利」とは言えません(国税庁タックスアンサー No.6905)。
3. 論点②―少額資産(10・20・40万円)の判定が変わる
10万円未満の即時損金、20万円未満の一括償却資産、中小企業者等の少額減価償却資産の特例——これらの金額判定は、採用している経理方式の金額で行います。税抜経理なら税抜金額、税込経理なら税込金額です。
しかも、少額特例は令和8年度税制改正で、令和8年(2026年)4月1日以後に取得等をする資産について「30万円未満」から「40万円未満」に引き上げられました(国税庁「令和8年度税制改正のあらまし」)。
たとえば税抜398千円(税込437.8千円)の機器なら、税抜経理では「40万円未満」に収まり、この特例で全額を即時損金にできる余地がありますが、税込経理では「40万円以上」となり通常の減価償却になります。設備を細かく複数そろえる医院ほど、税抜経理が少額判定で効いてきます(青色申告の中小企業者等であること・年間合計300万円が上限、などの要件あり)。
4. 論点③―償却資産税(固定資産税)も変わる
見落とされがちですが、市区町村に納める償却資産税(固定資産税の償却資産)も経理方式の影響を受けます。課税標準が取得価額をもとに決まるためです(以下、東京都主税局「固定資産税(償却資産)」)。
・取得価額は経理方式による:償却資産の取得価額は、税務上採用している税込・税抜経理方式により申告するのが原則です。ただし、税抜経理でも、インボイス制度等により税務会計上その資産の取得価額に含める消費税相当額等がある場合は、その税務会計上の取得価額で申告します。税込経理だと、その分だけ課税標準が大きくなり得ます。
・免税点:償却資産の免税点は、2026年度分までは、資産所在地の市町村(東京23区は区)における課税標準額の合計が150万円未満です。令和8年度税制改正により、2027年度分以後は180万円未満へ引き上げられます。
・少額資産の扱いに注意:10万円未満で即時損金にしたもの、20万円未満の一括償却資産は、償却資産税の対象外です。ところが、40万円未満特例で即時損金にした資産は、償却資産税では対象になり、申告が必要です。
ここに実務的な分かれ目があります。取得価額が10万円以上20万円未満の資産なら、3年間の一括償却を選択することで償却資産税はかかりませんが、40万円特例で即時損金にすると法人税等は早く落とせても償却資産税はかかります。「法人税で早く費用にできた=有利」だけで判断しないことが大切です。
5. 結論―自院はどっち?
次の順で確認すると、自院にとっての向き・不向きが見えてきます。
① 自院の消費税上の立場を確認する(免税事業者は比較対象外。簡易課税・2割特例では第3章・第4章、原則課税では第2章から第4章が検討対象)
② これから買う資産の耐用年数は長いか短いか(建物・内装など長い資産が多いほど税抜経理が有利になりやすい)
③ 40万円未満の資産を複数そろえるか(そろえるほど税抜経理が効く)
④ 償却資産税への影響(税込は課税標準が上がり得る/40万円特例の資産は償却資産税の対象)
目安としては、原則課税で、耐用年数の長い大型投資(建物・内装)を控えている医院は税抜経理が有利になりやすい、と考えておくとよいでしょう。ただし、経理方式はすべての取引に一貫して適用するのが原則で、資産ごとに税抜・税込を使い分けることはできません。また、毎期のように税抜・税込を変更するのは、損益(PL)の比較の観点からも好ましくありません。自院の設備投資計画とあわせて、最終的な選択は顧問税理士とご相談ください。
執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)
※本記事は2026年8月4日時点の情報に基づく一般的な整理です。制度・取扱いは変更される可能性があるため、実際の適用にあたっては最新情報を確認のうえ、税理士にご相談ください。


