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クリニック開業、税理士にはいつ相談する?──物件契約前がおすすめな理由

  • 8月21日
  • 読了時間: 8分

更新日:2 時間前

 「税理士に相談するのは、実際に診療を始めてからでいいですよね」——開業準備中の先生から、よくこう聞かれます。開業にあたっては、医療機器のディーラーやメーカーなど、サポートしてくれる方がたくさんいます。

 ただ、税理士に相談する価値が高いのは、実は物件契約や設備投資、融資申込みといった、あとから変更しにくい意思決定をする前の段階です。「開業の何か月前か」というカレンダーよりも、大きな数字を決める前に相談できているか。ここが分かれ目になります。

 ①相談すべきタイミングの考え方、②相談する意味、③税理士選びで見落としがちな視点、という3点に絞って整理します。


① 目安は「融資の検討・申込み前」。時期でいえば半年〜7か月前ごろ

 クリニック開業では、物件契約、内装工事、医療機器の購入、スタッフ採用など、多額の固定費や投資が比較的早い段階で決まっていきます。これらはいったん契約すると条件を変更しにくく、後から「やっぱりこの投資額では厳しい」と気づいても引き返せません。

 だからこそ、相談する価値が最も高いのは、物件契約や融資の申込みといった、これらの意思決定に動き出す前の段階です。時期の目安としては、遅くとも開業の半年〜7か月前ごろまでには一度相談しておくと、融資の検討・申込みに向けた準備を余裕をもって進めやすくなります。これは「早ければ早いほどよい」という意味ではなく、開業構想の段階で一度相談しておくことには意味がありますが、その時点から顧問契約を結んで継続的な支援を受け始める必要があるとは限りません。

 また、クリニックの資金繰りには特有の事情があります。保険診療分の診療報酬は、診療月から実際の入金までおおむね2か月程度のタイムラグがあります。遅れて入るのは診療報酬の大半を占める保険請求分で、患者の窓口負担分は診療当日に入金されます。そのため開業直後の2〜3か月は保険分の入金が薄くなりやすく、この期間の人件費・家賃・リース料・借入返済などを賄えるよう、運転資金は数か月分の固定費を厚めに見ておくと安全です。

 金融機関から融資を受ける場合、事業計画書の内容は審査の重要な材料になります。ここで確認されるのは、売上見込み・人件費・設備投資額・借入返済額などが、どのような前提で計算されているかという点です。融資は申し込んですぐに実行されるものではなく、一般的な目安として、日本政策金融公庫の創業融資では面談から実行まで1か月前後、信用保証協会付きの制度融資では1〜2か月程度とされます(実際の期間は金融機関や案件により異なります)。書類準備や面談日程も含めて逆算すると、物件・設備の話が固まる前の早い段階で税理士に相談し、数字を整理しておく意味があります。税理士に相談するメリットは「税理士が作った計画書だから通りやすくなる」ことではなく、早めに数字を詰めておくことで金融機関とのやり取りがスムーズになりやすい点、また数字の前提や資金計画を第三者の目で検証しておける点にあります。融資の可否そのものは金融機関の判断であり、税理士が保証できるものではありません。

 なお、クリニック開業では、医療機器のディーラーやメーカーが事業計画書を用意してくれることもあります。こうした計画書は、機器の導入や融資を通すことに主眼が置かれているため、売上や患者数の前提がやや強気になりがちで、開業後の税負担や資金繰りまでは踏み込んでいないこともあります。一方、税理士が関与する事業計画書は、開業後の借入返済・資金繰り・税負担の現実性まで含めて数字を検証する視点で作ります。どちらが優れているという話ではなく目的が異なるということなので、提案をそのまま受け入れるのではなく、開業後に実際に回せる数字になっているかを第三者の目で確かめておくとよいでしょう。


② 税務申告のためではなく、「大きなお金を使う前」に相談する

 開業前に税理士へ相談する目的は、単に経理体制を早く準備することでも、節税案を検討することでもありません。むしろ重要なのは、物件・設備・借入といった、一度決めると変更しにくい数字を事前に検証することです。具体的には、総投資額、自己資金と借入額の内訳、毎月の借入返済額、人件費・家賃などの固定費、損益分岐点となる売上や患者数、①で触れた入金タイムラグを踏まえた運転資金の確保、といった項目です。特にクリニックでは、「月商いくら必要か」だけでなく、想定する診療単価や変動費、診療日数などを踏まえて「1日何人程度の患者数が必要か」まで落とし込むと、事業計画の実現可能性を判断しやすくなります。この必要患者数は、周辺人口や年齢構成、競合状況、受療率などを踏まえた診療圏調査で見込める患者数と突き合わせて、初めて実現可能性を判断できます。診療圏は物件の立地でほぼ決まるため、物件契約前の段階で確認しておく意味があります。これらを開業前に整理しておくと、物件や設備投資の規模を決める際の判断材料になります。

 開業前の支出についても、税務上の扱いを整理しておく必要があります。開業前の支出には、開業費として扱えるもの、固定資産として減価償却するもの、その年の必要経費となるものが混在しており、たとえば内装工事や医療機器は原則として減価償却資産、電子カルテも契約形態や支出内容によって処理が異なります。なお、開業費は繰延資産として任意のタイミング・金額で償却できる(任意償却)ため、赤字になりやすい開業初年度は償却を抑え、黒字化した年度にまとめて償却するといった調整もできます。開業前に支払ったものがすべて開業費になるわけではないため、開業前から領収書や請求書を整理し、何のために支払ったか分かる資料を残しておくと、開業後の経理や申告がスムーズになります。

 あわせて、期限のある届出も押さえておきたいところです。代表的なものは次の3つです。

手続き

主な提出期限

個人事業の開業・廃業等届出書

開業した年分の所得税の確定申告期限まで

所得税の青色申告承認申請書

原則その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内)

給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書

給与支払事務所等を開設した日から1か月以内


 2026年1月1日以後の開業では、開業届の提出期限が従来の「開業から1か月以内」から「開業した年分の所得税の確定申告期限まで」に変更されています。開業と同時に給与を支払う場合は開業届の「給与等の支払の状況」欄でカバーできますが、開業後に途中から雇用する場合は、その時点から1か月以内に給与支払事務所等の開設届出書を別途提出します。また、青色申告承認申請の期限を過ぎると、その年は青色申告の承認を受けられず、特別控除などの特典が使えなくなります。


③ 選ぶ基準は「開業後も数字を一緒に見てくれるか」

 税理士選びで見落とされがちなのが、開業の手続きを代行してくれるかどうかだけで判断してしまうことです。本当に効いてくるのは開業後で、事業計画と実績を照らし合わせながら、数字を一緒に見てくれる相手かどうかが重要になります。

 開業支援と開業後の顧問は、同じ税理士でも、別々の専門家に依頼してもかまいません。同じ税理士なら計画と実績を月次でつなげやすく、別々にする場合は、事業計画の前提や借入条件、設備投資の内訳、会計データなどを、開業後に引き継ぐ税理士へきちんと引き継げるかが重要です。引き継ぎが不十分だと、開業後に資料を整理し直す手間が生じることがあります。

 だからこそ、初回相談では「開業後の数字をどの程度の頻度で確認できるか」「事業計画と実績の差異まで一緒に確認してもらえるか」「医療法人化や、診療報酬改定が経営数値に与える影響について相談できるか」など、開業後にどこまで数字を一緒に見てくれるかを具体的に確認しておくとよいでしょう。保険診療が中心のクリニックでは、社会保険診療報酬の概算経費特例が使える場合があり、税負担や将来の医療法人化の判断にも関わってきます。

 また、クリニック開業では税務以外にも、保健所への診療所開設届と、地方厚生局への保険医療機関の指定申請という、それぞれ別の手続きが必要です。指定申請には毎月の締切があり、指定日より前の保険診療は原則としてさかのぼって請求できないため、開業日の設定が初月の保険収入に影響します。こうしたスケジュールも、行政書士や社会保険労務士など他の専門家との連携体制とあわせて、早めに確認しておくと安心です。



まとめ

 税理士に相談するタイミングは、単純に「開業の何か月前」で決めるよりも、物件契約や設備投資、融資申込みといった、後から変更しにくい意思決定をする前と考えるのが実務的です。目安としては遅くとも開業の半年〜7か月前までに一度相談し、投資額や借入額、開業後の資金繰りを確認しておくとよいでしょう。あわせて、開業支援だけでなく、開業後も事業計画と実績を照らし合わせながら数字を一緒に見続けてくれる相手かどうかも確認しておくことをおすすめします。


執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)

※本記事は2026年8月時点の情報にもとづきます。届出の期限や税務上の取扱い、事業計画の要否、融資の審査期間は個々の状況により異なるため、具体的な判断は税理士等の専門家や金融機関にご相談のうえ行ってください。


参考

国税庁「A1-5 個人事業の開業・廃業等届出手続」:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm

国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/09.htm

国税庁「A2-7 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」:https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_11.htm

日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」:https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html

日本政策金融公庫 スタートアップ支援ポータル(融資の一般的な流れ):https://www.jfc.go.jp/n/finance/startuppop/

 
 
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