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小規模企業共済・経営セーフティ共済は医療法人で使える? 個人開業医のうちに考えたい出口設計

  • 3 時間前
  • 読了時間: 9分

 「小規模企業共済に入っておけば節税になりますよね」「セーフティ共済も検討しています」——個人開業の院長からよくいただくご相談です。ただ、この2つの共済には医療機関ならではの大きな制約があります。結論から言うと、医療法人またはその役員という立場では、どちらも新規加入・契約継続ができません

 小規模企業共済も経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)も、中小機構が運営する制度で、個人事業主や中小企業の節税策としてよく紹介されます。ですが医療機関の場合、加入できるかどうかの入り口で医療法人か個人開業医かによって答えがまったく変わります。今回は、この2つの共済を医療機関の目線で整理し、法人化を見据えたときにどう向き合うべきかをお伝えします。


この記事のポイント ● 小規模企業共済も経営セーフティ共済も、医療法人・その役員としては加入・継続できない。医療機関に限れば、要件を満たす個人開業医が利用できる制度 ● 小規模企業共済は、通常の医療法人化では、個人事業の廃業を事由とする「共済金A」を請求し、一括受取りは退職所得 ● 経営セーフティ共済は、医療法人化時点で契約が残っていれば、その日にみなし解約となり、解約手当金の全額が個人の事業所得の収入になる

① どちらも「医療法人」は加入できない

 まず押さえていただきたいのは、小規模企業共済も経営セーフティ共済も、医療法人は加入対象外という点です。

 小規模企業共済は、中小機構の加入資格ページで「協同組合、医療法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人、社団法人、財団法人、NPO法人など、直接営利を目的としない法人の役員等」を加入できない例として明記しています。一方で個人開業医は加入対象に含まれますが、業種区分がサービス業(医業)となるため、常時使用する従業員の数が5人以下であることが要件です。この人数要件は加入時点で判定されるため、加入後に従業員が増えても、そのことだけを理由に契約が終了することはありません。なお、家族従業員やパートなどは、原則としてこの人数に含まれません。

 経営セーフティ共済も同様で、加入資格ページに「医療法人」が加入できない事業形態として明記されています。個人開業医は加入対象ですが、事業を継続して1年以上経過していること、常時使用する従業員の数が100人以下であることなどの要件を満たす必要があります。

 整理すると、加入できるかどうかは次のとおりです。

立場

小規模企業共済

経営セーフティ共済

個人開業医(常時使用する従業員5人以下)

加入可

事業継続1年以上などの要件を満たせば加入可

個人開業医(常時使用する従業員6人以上)

新規加入は不可。ただし加入後の従業員増加のみを理由に契約終了とはならない

事業継続1年以上、常時使用する従業員100人以下などの要件を満たせば加入可

医療法人・その役員

加入不可

加入不可

 医療機関に限って整理すると、2つの共済はいずれも、要件を満たす個人開業医の段階でのみ利用を検討できる制度です。ただし、医療法人化直前の駆け込み加入が、必ずしも有利になるわけではありません。法人化までの期間と、解約・受取時の支給条件を確認したうえで判断することが大切です。


② 「加入できるか」だけでなく、医療法人化時の出口まで設計する

 医療法人として契約を継続できない以上、加入できるかどうかだけでなく、医療法人化の際に積み立ててきた共済をどう受け取り、または解約するかという出口まで一体で設計する必要があります。

 小規模企業共済は、掛金月額1,000円〜70,000円(500円単位)で、年間84万円まで積み立てることができ、掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になります。個人開業医がクリニック事業の全部を医療法人へ移し、個人事業を廃止して医療法人の役員となる通常のケースでは、小規模企業共済の契約を医療法人の役員として継続することはできません。この場合、中小機構の案内では、個人事業の廃業を事由とする「共済金A」を請求します。なお、ほかにも個人事業を営んでいる場合などは請求事由が異なる可能性があるため、個別確認が必要です。なお、共済金Aであっても、掛金の納付月数が6か月未満の場合は共済金を受け取ることができないため、法人化が近い段階で加入する場合は注意が必要です。

 医療法人化に伴う共済金Aを一括で受け取る場合、税務上は退職所得として扱われます。分割受取りを選べるのは、請求事由発生日に60歳以上であることや、共済金額が300万円以上であることなど、一定の要件を満たす場合に限られ、その分割受取分は公的年金等の雑所得になります。実際の出口設計では、掛金納付期間、受取方法、ほかの退職金の受取時期との重なりを確認することが重要です。

 つまり、個人開業医の間は小規模企業共済で退職金づくりと所得控除を積み、医療法人化のタイミングで共済金Aとして受け取ることになります。掛金納付月数や受取方法、ほかの退職金の受取時期との重なりを事前に確認しておくことが、医療法人化を考える院長にとっての実務的な論点になります。


③ セーフティ共済は、税務面では「節税」より「課税の繰延」

 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、もともと取引先が倒産したときに、無担保・無保証人で資金を借り入れられる、連鎖倒産を防ぐための制度です。借入限度額は、回収が困難になった売掛金債権等の額と、掛金総額の10倍(最高8,000万円)のいずれか少ない額までです。共済金貸付は無利子ですが、借入額の10分の1相当額が納付済み掛金から控除され、その部分の掛金に係る権利は消滅します。

 掛金は月額5,000円〜200,000円(5,000円単位)で積み立て、掛金総額の上限は800万円です。掛金は、制度一般では原則として法人は損金、個人事業主は事業所得の必要経費に算入できます。ただし、医療法人は加入対象外であるため、本記事で検討対象となるのは、個人開業医が納付した掛金の必要経費算入です。必要経費に算入するには、所定の明細書を確定申告書に添付する必要があります。

 ただし、これは「掛けた分だけ税負担を減らせる節税商品」というものではありません。解約すると解約手当金を受け取りますが、これは法人なら益金、個人なら事業所得の収入として課税対象になります。掛金を必要経費に算入した一方、受け取る解約手当金の全額は事業所得の収入となります。税務面では、税負担を消滅させる制度ではなく、課税時期を繰り延べながら資金を積み立てる仕組みと捉えるのが適切です。

 解約手当金の支給率は解約事由と掛金納付月数で異なります。任意解約では40か月以上、医療法人化に伴うみなし解約では36か月以上で支給率が100%になります。一方、納付月数が12か月未満では解約手当金は支給されず、12〜35か月のみなし解約では掛金総額を下回ります。法人化までの期間が短い場合は、加入による税負担の繰延効果だけでなく、解約時の支給率まで含めた試算が不可欠です。なお、共済金貸付を利用している場合、借入額の10分の1相当額などは解約手当金の算定基礎となる掛金総額から控除されるため、支給率100%であっても、累計納付額の全額が戻るとは限りません。

 また、令和6年(2024年)の制度改正にも注意が必要です。2024年10月1日以後に解約して再加入した場合、解約日から2年を経過する日までに支払う掛金は損金・必要経費に算入できなくなりました。短期間で解約と再加入を繰り返すことによる継続的な課税の繰延べには、現在、税務上の制限が設けられています。

 医療法人化の時点で経営セーフティ共済の契約が残っている場合、その日にみなし解約となり、解約手当金は個人の事業所得の総収入金額に算入されます。医療法人へ契約を引き継ぐことはできません。法人化の前に任意解約する選択肢もあるため、任意解約とみなし解約の支給率、解約手当金を収入計上する年、法人化年の所得を比較して判断する必要があります。

 法人化の実行年を検討する際は、解約手当金の全額が個人の事業所得の総収入金額に算入されることを前提に、ほかの所得や必要経費と合わせて税負担を試算します。



まとめ

 小規模企業共済と経営セーフティ共済は、いずれも医療法人およびその役員としては加入・継続できません。ただし、医療法人化時の出口は同じではありません。小規模企業共済は、通常、個人事業の廃業による共済金Aを請求し、一括受取りは退職所得となります。一方、経営セーフティ共済は、法人化時点で契約が残っていれば、その日にみなし解約となり、解約手当金の全額が個人の事業所得の収入となります。加入を検討する際は、法人化までの期間、掛金納付月数、解約時の支給率、法人化年の所得を一体で試算することが重要です。法人化をご検討の際は、共済の出口も含めて早めにご相談ください。


執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)


FAQ

Q1. 医療法人の理事は小規模企業共済に加入できますか?

A. 医療法人の理事という地位では加入できません。中小機構は医療法人を直接営利を目的としない法人として、その役員等を加入対象外としています。医療機関の場合、常時使用する従業員が5人以下であるなどの要件を満たす個人開業医が加入対象になります。


Q2. 経営セーフティ共済は医療法人でも使えますか?

A. 医療法人は加入できません。医療機関の場合、事業継続1年以上、常時使用する従業員100人以下などの要件を満たす個人開業医が加入対象になります。


Q3. 個人開業医が医療法人化したら、小規模企業共済はどうなりますか?

A. クリニック事業の全部を医療法人へ移して個人事業を廃止し、医療法人の役員となる通常のケースでは、契約の継続はできず、個人事業の廃業を事由とする共済金Aを請求します。一括受取りは退職所得です。ほかの個人事業を継続する場合や、ほかの退職金を同年・近接年に受け取る場合などは取扱いの個別確認が必要です。


Q4. 経営セーフティ共済は節税になりますか?

A. 要件を満たす個人開業医が納付した掛金は、原則として事業所得の必要経費になります。一方、解約手当金の全額は事業所得の総収入金額に算入されます。そのため、税務面では税負担をなくす制度ではなく、課税時期を繰り延べる制度と捉えるのが適切です。法人化までの期間、解約時の支給率、解約手当金を収入計上する年まで含めて判断する必要があります。


Q5. 医療法人化する場合、経営セーフティ共済はどうなりますか?

A. 医療法人化の前に任意解約することは可能です。ただし、契約を残したまま医療法人化した場合は、その日にみなし解約となり、医療法人へ契約を引き継ぐことはできません。任意解約は40か月以上、みなし解約は36か月以上で支給率が100%となるため、解約時期、支給率、解約手当金を収入計上する年を比較して判断する必要があります。


参考文献

加入資格|小規模企業共済(中小機構):https://kyosai-web.smrj.go.jp/skyosai/entry/index_02.html

加入資格|経営セーフティ共済(中小機構):https://kyosai-web.smrj.go.jp/tkyosai/entry/index_01.html

No.1135 小規模企業共済等掛金控除(国税庁):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm

個人事業主が医療法人成りした場合の取扱い(中小機構FAQ ID:2043):https://kyosai-faq.smrj.go.jp/skyosai/index.php?action=faq&artlang=ja&cat=33&id=2043

共済金等の請求・解約/受取方法・税法上の取扱い(中小機構):https://kyosai-web.smrj.go.jp/customer/skyosai/claim/

共済金の借入条件(中小機構):https://kyosai-web.smrj.go.jp/customer/tkyosai/loan/index_03.html

経営セーフティ共済 制度の概要(中小機構):https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/features/

解約手当金の支給率(中小機構):https://kyosai-web.smrj.go.jp/customer/tkyosai/cancellation/

医療法人成り時の取扱い(中小機構FAQ ID:17・経営セーフティ共済):https://kyosai-faq.smrj.go.jp/tkyosai/index.php?action=faq&artlang=ja&cat=14&id=17


※本記事は2026年8月時点の情報です。制度の詳細は中小機構・国税庁の最新情報をご確認ください。個別の税務判断は税理士にご相談ください。

 
 
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