医療法人の土地・建物を、理事長個人やMS法人の借入の担保にできる?
- 7月22日
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更新日:1 日前
開業資金の借り換えや、ご自身が経営されているMS法人(医療機関の事務や物品調達などの周辺業務を担う、理事長等の関連会社)の設備投資で、銀行から「医療法人名義の不動産や定期預金を担保に入れてもらえますか」と言われたことはありませんか。医療法人の財産は、法人自身のためだけでなく、理事長個人やMS法人の借入のためにも使えるものなのでしょうか。
この記事のポイント ● 医療法人の借入なら、定款や理事会・社員総会の決議など所定の手続を踏むことで担保提供は可能です。ただし「理事長個人」「MS法人」の借入の担保は、まったく別の話として考える必要があります。 ● 医療法54条では、理事長個人やMS法人の借入への担保提供が「配当類似行為」として問題視されています。ただし最終的には所轄の都道府県の判断によります。 ● 持分なし医療法人への移行や認定医療法人制度を使う場合は、相続税法と国税庁通達が「担保」「保証」を非課税要件の対象外(特別の利益)と明記しているため、事前の是正が必要です。
まず前提:医療法人「自身」の借入なら、手続を踏めば担保提供できます
医療法人が「自分自身の事業」のために借入をし、その担保として法人の財産を提供すること自体は、禁止されていません。
医療法人の財産は「基本財産」と「普通財産(運用財産)」に分かれます。基本財産は、モデル定款でも「処分し、又は担保に供してはならない。ただし、特別の理由がある場合には、理事会及び社員総会の議決を経て」提供できる、という建付けです。普通財産はここまでの制限はありませんが、それでも定款や機関決議の確認は欠かせません。分院の建設資金、医療機器の更新資金といった法人の事業に直接必要な借入であれば、こうした手続を踏んだ担保提供は通常の資金調達として行われています。
問題は、この担保提供の借入をする人が、医療法人自身ではなく理事長個人やMS法人になったときです。ここからは「基本財産か普通財産か」という手続の話ではなく、医療法と税務の別の論点になります。
①医療法54条の「配当類似行為」の論点
医療法54条の条文上は「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。」の一文だけで、担保提供そのものを禁止する文言はありません。厚生労働省の正式な通知にも、担保提供をNGと名指しした具体的な例示はないのが実情です。
具体的な例示は、所轄庁である都道府県のレベルで出ています。今回確認できた範囲では次の3都県が参考になります。
都道府県 | 資料の中の表現 |
東京都 | 剰余金の配当とみなされる例に「理事長等の個人的な借入の返済又は、法人資産を担保提供」 |
愛知県 | 「医療法人の事業と関係のない理事長の私的債務に対して医療法人が保証又は物上保証(担保提供)を行うことは、家計と経営の区別を目的とする医療法人制度の趣旨に反するものであり適当でない」 |
宮城県 | 剰余金配当禁止に抵触するおそれのある取引に「医療法人の資産への抵当権設定」「MS法人に対する貸付金・仮払金等の資金供与」 |
一方、神奈川県や大阪府などは、担保提供を名指しせず「役員等への不当な利益の供与」という包括的な表現としております。しかし、明示されていない都道府県だから安全、とは読めないです。理事長個人の借入への担保はどの県でも避けるべき方向で共通しており、MS法人についても、実態として理事長が運営している場合、同様と指摘される可能性もあるかと考えます。
ただし、即医療法違反になるかというと、そこは言い切れないと考えます。担保提供は、担保権が実行されるまで現実の財産の移動がなく(この点が貸付とは違います)、平時の帳簿だけでは表面化しにくい取引です。そのため、行政側が自動的に把握できるわけではありません。とはいえ「把握されにくい」ことと「適法」であることは別で、後述の持分なし移行や認定医療法人の申請、会計監査、M&A・事業承継のデューデリジェンス、そして何よりMS法人が返済できなくなって担保が実行された場面などで、問題は表面化します。
なお、参考までに、押さえておきたい条文があります。医療法46条の6の4は、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律84条を準用しており(条文中の「社員総会」を「理事会」と読み替えます)、その84条1項3号は「医療法人が理事の債務を保証すること」を、理事会での開示と承認を条件に行い得る取引として定めています。大阪府や神奈川県が理事の債務保証を利益相反取引として整理し、理事会の承認を求めているのは、この規定によるものです。
逆に言えば、承認という手続がわざわざ用意されていること自体、こうした取引を一律に禁止(配当類似行為)とはしていない、とも読めます。ただし、それは「手続を踏めばできる取引」という意味であって、無償や不当な条件など中身が伴わなければ、承認を得ても54条の問題は残ります。それを配当類似と見るか、手続の話で済ませるかを最終的に判断するのも、所轄の都道府県です。
結局のところ、医療法54条上の当否は、行政の運用に差があり全国一律の通知もないため、最終的には所轄の都道府県の判断による、というのがこの論点の結論です。
②持分なし移行・認定医療法人を使う場合は、「特別の利益」で是正が必要
医療法54条とは別に、税務でもう一つ、はっきりした論点があります。持分なし医療法人への移行を考えている先生は、こちらのほうが実害に直結します。
持分あり医療法人から持分なし医療法人へ移行すると、出資者が持分を放棄することで医療法人が経済的利益を受けたとみなされ、相続税法66条4項によるみなし贈与課税が生じ得ます。この課税を非課税にするための要件の一つが「贈与者等やその特殊関係者に特別の利益を与えないこと」です(相続税法施行令33条3項)。
そして、この「特別の利益」の中身を定めた国税庁の通達(昭和39年6月9日付 直審(資)24)が、具体例として、法人の財産を関係者の「居住、担保その他の私事」に利用させることや、関係者の債務に関し「保証、弁済、免除又は引受け」をすることを、はっきり挙げています。役員個人はもちろん、役員が代表を務めるMS法人も「特殊関係者」に含まれ得ます。
つまり、理事長個人やMS法人への担保提供・保証を続けたまま持分なし移行や認定医療法人の申請を進めようとすると、非課税の要件そのものを満たせないおそれがある、ということです。医療法54条の当否が所轄庁の判断に委ねられるのとは違い、税務のこちらは「対象外」と要件に書かれている分、はっきりしています。移行を検討するなら、役員個人・MS法人への担保提供や保証は、申請の前に解消しておくのが安全です。
まとめ
医療法人の財産を担保に入れられるかは、「誰の借入か」で答えが変わり、さらに「医療法54条」と「持分なし移行時の贈与税」という二つの物差しで見る必要があります。理事長個人やMS法人の借入への担保提供、既存の担保をどう解消するかといった個別の判断は、まずは顧問税理士に確認しながら進めてください。
執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)
※本記事は2026年7月時点の情報です。個別の取扱いは所轄の都道府県・顧問税理士にご確認ください。
参考
条文
・医療法54条(剰余金配当の禁止) ・医療法46条の6の4(利益相反取引。一般社団法人及び一般財団法人に関する法律84条1項3号を準用。「社員総会」を「理事会」と読替) ・相続税法66条4項(持分の定めのない法人へのみなし贈与課税) ・相続税法施行令33条3項(特別の利益を与えないこと) ・国税庁法令解釈通達 昭和39年6月9日付 直審(資)24 第16項(「特別の利益」の具体例に「担保」「保証」)
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