節税したい医療法人の院長へ ― まず確認したい3つのこと
- 7月3日
- 読了時間: 6分
更新日:2 時間前
「何か節税できませんか?」「黒字を出さないようにコントロールしたいです」。
決算前になると、医療法人の院長先生からよくいただくご相談です。
税金はできれば減らしたいものですし、税理士に対する希望として、そのニーズがあることもよく理解しております。しかし、節税を考えるときに見落とされやすいことがあります。それは、節税には支出が伴うことが多く、資金繰りまで考えると「本当に今その節税をすべきか」という視点が必要になることです。
私たちは、節税のご相談でも、「いくら税金が減るか」だけではなく、「納税後にいくら現金が残るか」をまず整理することを大切にしています。
この記事のポイント ● 利益を出し、税金を支払ったうえで現金が残る状態を目指す ● 節税の多くは現金支出を伴う ● 利益・納税・資金繰りは別物として考える ● 節税は「必要投資」「院長・家族設計」「福利厚生・人材戦略」に分けて考える
① 法人税は利益に対してかかります
早速当たり前の話になってしまいますが、税金(法人税など)は、基本的に利益に対して課税されます。つまり、税金が発生しているということは、利益が出ているということでもあります。
もちろん、税負担は少ないにこしたことはありません。しかし、医療法人の経営では、「税金を払わないこと」そのものを目的にしてしまうと、かえって資金繰りを苦しくすることがあります。
これは、借入返済、医療機器の更新、将来の投資などは、納税後に残ったお金から支払っていく必要があるためです。
そのため、まずは「利益を出し、税金を払い、それでも現金が残る状態」を目指すことが、資金繰りの安定につながると考えています。
② 利益が出ていても、お金があるとは限りません
試算表上では利益が出ている。なのに、通帳を見るとお金が増えていない。なぜこれが起こるのか。理由の一つは、利益とキャッシュフローというものは一致しないためです。
一番大きな例として、借入の返済は、ただ借りたお金を返しているだけなので、原則として経費にはならないというものがあります。また、医療機器などの設備投資は、減価償却という考え方があるため、支払った金額がすぐに全額経費になるわけではありません。つまり、現金は出ていっているのに、会計上の利益とはタイミングがずれることがあります。だからこそ、利益・納税・現金残高のバランスを見ながら、節税を検討する必要があります。
③ 節税には支出が伴います
毎年の税制改正の結果、以前のような魅力的な節税策はだいぶ少なくなっています。
そのため、基本的には節税をするためには、現金支出が伴うと考える必要があります。
例えば、節税のために150,000円のタブレット端末(自宅でも使う高性能なもの)を買った場合を考えます。利益は100万円、税率を27%と仮定します(40万円未満のものを一度に経費にできる、中小企業向けの特例を使う前提です)。
利益100万円・税率27%で比べると、次のようになります。
買わない | 買う | 差額 | |
|---|---|---|---|
端末の支出 | 0円 | 150,000円 | +150,000円 |
税金 | 270,000円 | 229,500円 | △40,500円 |
合計支出 | 270,000円 | 379,500円 | +109,500円 |
この例では、端末を買うことで税金は40,500円減ります。しかし、現金支出全体で見ると、109,500円増えています。もちろん、その端末が業務上本当に必要なものであれば問題ありません。ただし、「税金を減らすためだけ」に、私的にも使うようなものまで買ってしまうと、税負担は下がっても手元資金はかえって減ってしまいます。このため、節税を考えるより先に、その支出の意味を考える必要があります。
④ 医療法人で考えられる節税のパターン
ここまで、節税よりも先に資金繰りを見るべきという話をしてきました。
ただし、節税を否定しているわけではありません。資金繰りが安定することが、事業継続の大前提と考えているため、優先順位付けが大事だという立場で考えています。
だからこそ、単に「利益を減らす」のではなく、法人のお金をどのように使い、どのように院長・職員・将来投資へ配分するかを考える必要があります。医療法人で検討しやすい節税は、大きく分けると次の3つです。
1. 必要投資型の節税
医療機器、電子カルテ、予約システム、院内設備など、もともと必要な投資を行う方法です。税額控除、特別償却、即時償却などの制度が使える場合もあります。ただし、重要なのは「税制優遇があるから買う」のではなく、必要な投資かどうかが先という点です。設備投資は現金支出を伴います。補助金を活用できる場合でも、入金まで時間がかかることがあります。そのため、資金繰りとセットで判断する必要があります。
2. 院長・ご家族を含めた設計型の節税
役員報酬、事前確定届出給与、退職金などです。医療法人では、剰余金の配当ができないため、院長個人への資金移転は、役員報酬や退職金など、適正なルールに基づいて設計する必要があります。ただし、役員報酬を増やせば、法人税は減る一方で、院長個人の所得税・住民税・社会保険料は増える可能性があります。そのため、法人だけでなく、医療法人と院長個人を合わせた手取りで考えることが重要です。退職金も、将来の出口設計として重要ですが、金額・支給時期・資金準備を含めて中長期で考えるテーマです。
3. 福利厚生・人材戦略型の節税
福利厚生は、節税だけでなく、採用や定着にもつながる可能性があります。例えば、健康診断の充実、食事補助、研修制度、企業型DC、福利厚生サービスなどです。
ですが福利厚生に関しては、「法人で経費になること」と「職員や役員に給与課税されないこと」は別問題としてあるので、留意が必要です。
また、院長や特定の役員だけが得をする制度になっていると、配当類似行為の論点が出る可能性があります(医療法人特有の論点)。そのため、全職員を対象としているか、社内ルールがあるか、内容が社会通念上妥当か、役員だけが過度に有利になっていないかを確認しながら設計する必要があります。福利厚生は単なる節税テクニックではなく、人材定着と医療法人の適正運営を両立するための制度設計として考えたいところです。
まとめ
私たちは、節税を否定しているわけではありません。ただ、節税を考える順番としては、節税から資金繰りを見るのではなく、利益予測、納税予測、資金繰り予測を行ったうえで節税を検討することをおすすめしています。「税金を減らすこと」よりも、「税金を払っても現金が残ること」、そして「その現金をどう将来に活かすか」が重要な場面も少なくありません。
節税・納税・資金繰り・福利厚生をセットで考えることで、医療法人の経営はより安定しやすくなると考えています。
「節税をしたいけれど、資金繰りに影響がないか不安」「役員報酬や福利厚生を含めて見直したい」という場合は、一度、利益・納税・資金繰りをセットで整理してみませんか。医療機関専門の税理士が対応いたします。
執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)
※本記事は2026年7月時点の情報です。個別の税務判断は、必ず担当税理士にご確認ください。


