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MS法人は作るべきか? ― 4つの役割と、4つの留意点

  • 8月12日
  • 読了時間: 5分

更新日:2 時間前

 「MS法人を作れば節税になる」と聞いて検討を始める院長は多いのですが、作れば得とは限りません。MS法人(メディカル・サービス法人)は、何のために作るのか(役割)と、そこに必ずついてくる留意点をセットで見て判断します。今回は、役割4つと留意点4つに絞って、判断の勘どころを整理します。

この記事のポイント ● MS法人の設立は、節税という観点だけで決めるものではなく、基本的には医療法人とは別に行うべき事業が実在するかで判断します。 ● 役割(①非医療業務/②箱を分ける/③所得分散/④資産管理・承継)には、それぞれ留意点があります。 ● 判断は税金だけでなく、消費税・社会保険・維持費まで含めたグループ全体の「手残り」で行います。

MS法人が担う「4つの役割」

① 医療法人では担えない業務を行う

 医療法人の業務は、診療(本来業務)と法令上の附帯業務などに限られます。一般の事業、不動産の貸付、医薬品・材料の中間卸、受付・経理・清掃などの業務委託といった非医療業務は、MS法人が受け皿になり得ます。なお、患者向けのサプリメントや眼鏡・コンタクトの販売は診療に付随する範囲なら医療法人でも可能な場合があること、MS法人でも医師・看護師の派遣はできないこと、医療機器の販売・リースには許可が必要なことなど、細かい制限があるため、確認が必要です。

② 事業の箱を分ける(非医師の家族に残す)

 医療法人は剰余金の配当が禁止され(医療法54条)、理事長も原則として医師です。そのため、非医師の家族が「オーナーとして経済的な成果を受け取る」ことには向きません。そこで、医師の子は医療法人を継ぎ、非医師の子はMS法人を担う、と箱を分ける使い方があります。ただし、MS法人が実際に事業を行い、適正な対価を得た結果として利益を分配するのが前提で、単に「医療法人の利益を移す」ことが自由に行えるわけではないので、ご留意ください。

③ 所得を分散する(法人税の軽減税率)

 中小法人は、年800万円以下の所得部分について法人税率が原則15%です。医療法人とMS法人に所得が分かれれば、それぞれこの枠を使える余地があります。ただし15%は国税だけの話で、実際の有利・不利は住民税・事業税まで含めて比べる必要があります。役員給与も、実際の職務に見合う金額でなければなりません。「二法人に分ければ必ず節税」とはいえません。

④ 資産管理・承継や、納税資金対策

 すでに実体と資金のあるMS法人であれば、不動産などを保有する資産管理会社として使い株式の形で承継する、相続で得た株式を発行会社へ売る「金庫株」で納税資金を作る、といった使い方もあります。ただし、法人化で相続税評価が必ず下がるわけではなく、資産を法人へ移す際の課税や、設立当初からの株主設計も必要です。あくまで、すでにあるMS法人の出口対策という位置づけです。


MS法人の「4つの留意点」

① 役員兼務

 医療機関の開設者・管理者や、医療法人の役員は、その医療機関の開設・経営上利害関係にある営利法人(MS法人)の役職員を、原則として兼務しないことが求められます(厚生労働省通知)。例外は限定的で、とくに理事長がMS法人の代表を兼ねる形は、問題となるケースが多いです。なお、開設・経営上の利害関係がない営利法人との兼務まで、この通知が一律に制限するものではありません。

② 取引価格の適正性・取引の実在性

 医療法人とMS法人の取引は、同族関係者同士の取引です。このため、税務調査では「金額の妥当性」と「取引の実在性」が特に重要視されます。価格が相場より高すぎれば、寄附金や役員給与、行為計算の否認(個人は所得税法157条、同族会社に当たるMS法人は法人税法132条)などが問題になり得ます。実際に業務が行われている実態(最低限、請求書が作られているかなど)と、価格の根拠(第三者見積り・原価・実績資料)を残せるかが分かれ目です。令和8年度改正では、関連者との一定の取引について、対価の計算根拠を補う書類の作成・保存も求められるようになりました。

③ 報告義務

 MS法人は多くの場合、医療法上の「関係事業者」に当たります。一定規模(たとえば1件1,000万円以上かつ事業収益・費用の10%以上など)の取引は、事業報告書に記載して都道府県へ届け出る必要があり、閲覧の対象として外部の目に触れます(医療法51条・52条)。また、認定医療法人では、不適正に高い取引が「特別の利益」に当たり、認定の取消しにつながるおそれもあります(すぐにMS法人取引がだめといわれるわけではありません)。

④ 損税(控除対象外消費税等)

 保険診療が中心の医療法人は非課税売上が多く、MS法人へ支払う賃料・委託料の消費税を控除しきれず、損税(控除対象外消費税等)として残りやすくなります。MS法人が消費税の課税事業者となる場合、MS法人が納税する消費税を医療法人が損税として負担することになるため、取引内容と消費税への影響は整理して認識いただく必要があります。


まとめ

 MS法人を設立するかは、単に節税だけを考えればよい問題ではありません。向いているのは、医療法人とは別に行うべき事業が実在し、その事業を担う人員・資産・責任がMS法人にあり、第三者にも説明できる価格で続けられる場合です。税金だけでなく、消費税・社会保険料・法人の維持費まで含めたグループ全体の「手残り」が増えないのであれば、作る意味は乏しい——ここが最大のポイントです。

 なお、MS法人の設計は税務だけで完結しません。医療法や薬機法上の可否は所管の行政庁、会社法上の手続は司法書士・行政書士、労務や社会保険は社会保険労務士——と、確認すべき窓口は分野ごとに異なります。当事務所へご依頼いただける場合は、丁寧に活用方法を整理いたします。


執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)


※本記事は2026年8月時点の制度に基づく一般的な整理です。個別のMS法人の設立・取引価格・承継対策の可否については、必ず税理士等の専門家にご確認ください。

 
 
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