外来医師過多区域での開業、いつ・何から動く?
- 7月14日
- 読了時間: 7分
更新日:2 時間前
都心での開業を考えている先生から、「外来医師過多区域に指定されたら、もう開業できないのですか」というご質問をいただくようになりました。結論からお伝えすると、開業が禁止されるわけではありません。ただし東京都では、令和9年(2027年)4月1日以降に開設する診療所から事前届出が必要になる見込みです。そして、届出の中身(どの医療機能を担うか)を決めるには、1年以上前から動く必要があります。この記事では、規制の骨子と「東京で実際に求められる機能」を整理したうえで、開業前に何を・いつ決めるかを逆算で示します。
この記事のポイント ● 東京都心で実際に「不足」とされるのは在宅医療・夜間休日の初期救急。医師の数は多くても、担い手が敬遠しがちな機能ほど手薄になりやすい ● 東京都の正式な指定・届出様式はまだ未公表。令和8年(2026年)10月1日に公表予定で、その6か月後=令和9年(2027年)4月1日以降に開設する診療所が対象 ● 担える協力がなければ、要請を断って指定短縮(6年→3年)を受け入れるか、過多区域の外で開業するのも選択肢。医師不足の「支援区域」なら税優遇もある
1. 何が変わるのか——3つの新ルール
2025年12月に成立した改正医療法により、2026年4月から都市部での診療所開業に新たな枠組みが導入されました。ねらいは開業の禁止ではなく、医師が偏って集まる都市部に、地域で不足する機能を担ってもらうことです。骨格は3つです。
① 開業6か月前までの届出義務:「外来医師過多区域」で無床診療所を開く場合、開設6か月前までに提供予定の医療機能を都道府県へ届け出ます。
② 不足機能の提供要請:届出を受けた都道府県は、協議の場への参加を求め、地域に不足する機能の提供を要請できます。
③ 応じない場合のペナルティ:要請は任意ですが、従わないと「勧告 → 公表」と進み、保険医療機関の指定期間が通常6年から3年(場合により2年)に短縮される対象になり得ます。
加えて、施行3年後をめどに開設数が廃止数を上回る区域では開業のあり方を再検討する見直し条項も入っており、規制は今後さらに強まる可能性があります(これは筆者の見解です)。
2. 「外来医師過多区域」とは——東京は17区が候補
「外来医師偏在指標」に基づき、人口あたりの外来医師が全国平均を大きく上回る二次医療圏が対象です。厚生労働省が公表した候補は全国9医療圏(全国の約3%)。このうち東京都は5医療圏・17区と大半を占めます——区中央部(千代田・中央・港・文京・台東)/区西部(新宿・中野・杉並)/区西南部(目黒・世田谷・渋谷)/区南部(品川・大田)/区西北部(豊島・北・板橋・練馬)。ほかに京都市・大阪市・神戸市・福岡糸島などが含まれます(参照:外来医療提供体制に関するデータ等|厚生労働省)。当事務所のある台東区も「区中央部」に含まれており、地元のこととして規制の重みを実感しています。
ただし、現時点で東京都は正式な指定も届出様式も公表していません。都の予定では、令和8年(2026年)10月1日に過多区域と「地域外来医療(地域で不足する外来医療)」を公表し、その6か月後=令和9年(2027年)4月1日以降に開設する診療所が事前届出の対象になります。
3. 東京都で「不足」とされる外来医療機能は何か
国のガイドラインは、提供を求めうる「地域で不足する外来医療機能」として次の4つを例示しており、東京都外来医療計画も同じ枠組みを採っています。
・夜間・休日などの初期救急医療
・在宅医療
・産業医・学校医・予防接種などの公衆衛生に係る医療
・その他、地域として対策が必要な外来医療機能
ただし、実際に何が足りないかは地域ごとに違います。
例えば、東京都の外来医療計画(令和6年3月改定)を見ると、区中央部は外来医師が突出して多い地域で(外来医師偏在指標は全国1位)、確保が必要な外来医療機能として在宅医療と夜間・休日の初期救急が挙げられています。医師の数は多くても、こうした"担い手が敬遠しがちな機能"ほど手薄になりやすいのが都心の特徴です
(参照:東京都外来医療計画|東京都保健医療局)。
このため、新規開業にあたり選択肢は3つに近づきます。①在宅・救急の体制を整備する、②要請を断って指定短縮のリスクを取る、③過多区域の外で開業する。 このどれを選ぶかを、開業地を決める段階で織り込んでおくことが要になります。
4. 開業前の逆算アクション——個人開業のスケジュールで見る
多くの先生は、まず個人事業主として開業します。医療法人化は開業と同時にはできず、数年の診療実績を積んでから別途認可申請するのが一般的だからです。個人開業の準備は、テナントでもおおむね1年、物件や大型機器の状況によっては1年半前から動きます。ここに開業規制の届出(開業6か月前)を重ねると、次のような流れになります。
時期 | やること |
12〜18か月前 | 開業コンセプト・診療科・事業計画を固める。開業候補地が過多区域か確認し、該当するなら担える地域貢献メニュー(在宅当番の輪番・救急出務など)と、担う場合のコストを見極める |
6〜12か月前 | 物件(テナント)選定・賃貸借契約、開業資金の借入計画、保健所・医師会への事前相談 |
4〜6か月前 | 内装の設計・工事、医療機器の選定(CT・内視鏡など大型機器は納品まで2〜3か月かかるため早めに発注)、電子カルテの選定 |
6か月前(過多区域の届出期限) | 都道府県へ提供予定の医療機能を届出(東京都は令和9年4月1日以降に開設する診療所が対象) |
1〜3か月前 | スタッフ採用、ホームページ・広告、各種届出(保健所への開設届、地方厚生局への保険医療機関指定申請)、内覧会 |
開業時 | 個人事業主として開業。開業地が支援区域なら、不動産取得税・登録免許税の軽減を確認 |
開業から数年後 | 所得が安定したら医療法人化を検討(実績をもとに別途認可申請。認可は年2回など回数が限られる) |
届出そのものは開業6か月前で足ります。しかし、届け出る「医療機能」を決めるには、その前に物件・体制・収支の見通しが固まっていなければなりません。逆算すると、開業地を選ぶ最初の段階からこの規制を織り込んでおくのが安全です。
5. 開業地選定は「お金」の視点で——過多区域と支援区域は別物
対象9医療圏の外(同じ都内でも郊外の医療圏、神奈川・埼玉・千葉の都市近郊)なら規制の対象外です。一方、医師が不足する地域には「重点医師偏在対策支援区域」という区域があります。名前は似ていますが、外来医師過多区域とはまったく別の区域です。過多区域=規制がかかる場所、支援区域=優遇がつく場所、と対で覚えてください。
支援区域で診療所を開設・承継すると、登録免許税・不動産取得税が軽減されます(令和8年度税制改正で新設。不動産取得税は不動産価格の1/2相当を課税標準から控除。令和10年3月末までの時限措置。参照:令和8年度税制改正の概要(厚生労働省関係)|厚生労働省)。開業地選びは、患者数・競合・賃料に加えて「過多区域か、支援区域か」という税負担のメリット・デメリットもご確認ください。
6. 新規が難しいときのもう一つの分岐——承継
規制がかかるのは新規開業で、既存クリニックを引き継ぐ承継は原則この規制の対象外です。このため、事前にM&Aの業者にアクセスする等、専門家の力を借りる必要も出てきます。なお、個人診療所の承継は資産譲渡課税、医療法人の承継は出資持分の評価と譲渡課税など、税務面での整理もご確認ください。
まとめ
東京での届出義務が実際に動き出すのは令和9年4月以降ですが、届け出る「医療機能」を固めるには、いまから開業地と体制を考え始める必要があります。都心で求められるのは在宅・夜間休日救急など"担い手の少ない機能"に偏るため、担うのか、断ってリスクを取るのか、区域の外に出るのか——この判断が開業計画の骨格になります。まずは「自分の開業候補地が、どちらの区域に当たるか」の確認から始めてみませんか。
執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)
ご相談ください
新規開業の収支シミュレーションから、承継案件の価格・税務の検証、医療法人設立後の税務まで、医療特化でサポートします。対象区域での開業・承継をお考えの方は、早めにご相談ください。
※本記事は2026年7月時点の情報で作成しております。


