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医科クリニックの承継(継承)、何年前から準備する? 話し始めるのは5年前、承継方法を決めるのは2〜3年前

5 日前
読了時間: 12分

「そろそろ引退を考える年齢だが、承継は何から手を付ければいいのか」。「親も高齢になってきたが、医院を継ぐのかどうか、まだ話せていない」。事業をどのタイミングで引き継ぐかを考えることは重要ですが、なかなかきっかけがないと難しいものです。理想を言えば、準備は承継の5年前から始められればよいのですが、実際にはそのようにきれいに段取りができている方は少ないと思います。この記事では、一般的な医科のクリニック(個人診療所、医療法人)のケースで、承継までの準備を3つの段階に分けて考えます。答えは、話し始めるのは5年前、承継方法を決めるのは2〜3年前、手続は6か月前からです。出遅れていても、2〜3年前や6か月前の段階から合流できます。

この記事のポイント ● 話し始めるのは、5年前からです。継ぐか継がないかも決まっていなくてよく、引退時期の仮置き、家族間の公平、親の引退後の生活資金を話し、決算書・借入・契約の現状を見える化しておきます。 ● 承継方法を決めるのは2〜3年前です。医院の評価、承継方法の候補、税金と資金負担の試算を行い、ベストな方法を検討します。子が先に医院で働き始める期間も、この段階に入れます ● 手続は6か月前からです。個人診療所なら遡及指定の類型確認や(指定区域では)外来医師過多区域の届出、医療法人なら登記・届出を、スタッフへの説明とあわせて進めます。

承継までの3つのステージについて

 先に全体像を表にします。時期は承継予定日から数えた目安です。個人診療所の方は1つ目、医療法人の方は2つ目の表をご覧ください。どの段階も、早く動くほど選択肢が増えます。

個人診療所の場合

時期

やること

5年前〜:話す

親子の意思確認(継ぐ・継がない)/引退時期の仮置き/継がない兄弟姉妹との公平/親の引退後の生活資金/医院の現状把握

2〜3年前:承継方法を決める

医院の評価/売却、贈与、貸付などの候補出し/候補ごとの税金・資金負担・親の手取りの試算/譲渡対価・賃料・共済などの引退後の収入設計/子が副院長などとして先に働く期間/設備更新と借入返済の時期合わせ/借入残高・返済予定・リース・保証の状況の把握

6か月前〜:手続

外来医師過多区域・遡及指定の確認/借入・リース・賃貸借がある場合は、金融機関・リース会社・大家さんへの相談と承諾/承継直後の約2か月分の運転資金の準備/スタッフへの説明・患者への告知/開設・保険指定・税務・公費などの手続(承継後は申告、譲渡代金・賃料の整理)


医療法人の場合

時期

やること

5年前〜:話す

親子の意思確認(継ぐ・継がない)/引退時期の仮置き/継がない兄弟姉妹との公平/親の引退後の生活資金/出資持分の「あり・なし」の確認/社員・役員の構成の確認/医院の現状把握

2〜3年前:承継方法を決める

法人の評価(出資持分の評価)/持分あり・なしごとの方針/理事長交代の方針/役員退職金を出すかどうかと、出す時期/認定医療法人(持分ありから移行する場合。期限は2029年12月31日)/候補ごとの試算/子が先に働く期間/設備更新と借入返済の時期合わせ

6か月前〜:手続

雇用は原則継続/借入や個人保証がある場合は、旧理事長の保証の解除、新理事長の保証の要否、担保を金融機関と協議/スタッフへの説明と患者への告知の準備/社員総会・理事会の決議、理事長変更登記、役員変更届、登記事項届、管理者変更の日程確認と実行/承継後は、先代への役員退職金の支給と原資の確認、個人保証の解除などの協議


5年前〜:話す

 5年前にやるのは、承継方法の検討ではなく話し合いです。継ぐのか継がないのか、院長は何歳まで診るつもりか。勤務医の方は、親の引退の時期や医院の経営形態といった事実の聞き取りから入るほうが切り出しやすいかもしれません。継がないという答えでもかまいません。その場合は第三者承継や閉院も含めて考えます。

 もう一つ話しておきたいのが、家族間の公平と院長の引退後の暮らしです。継ぐ子が医院の運営や収益の機会を引き継ぐため、継がない兄弟姉妹との公平が問題になりやすくなります。その場合は、医院の価値とほかの財産の釣り合いを、相続全体の問題として最初から共有しておくと、あとで揉めにくくなります。引退後の収入の出どころも、書き出してみてください。

 あわせて、決算書、借入、リース、賃貸借契約といった現状を一覧にしておきます。


2〜3年前:承継方法を決める

 この段階では、医院の評価、承継方法の候補、税金と資金負担の試算を進めます。比較するのは税額だけではなく、親の手元にいくら残るか、子がいくら用意する必要があるか、継がない兄弟姉妹とのバランスをどう考えるかまで整理します。税額だけを見ると、安い案に引っ張られて、家族の事情や院長の引退後の収入が後回しになりがちです。早いタイミングでできると、例えば評価や納税資金への対策など、対応できることが増えます。

 個人診療所の先代には役員退職金のようなものがないため、譲渡の対価、賃料、共済などで引退後の収入を設計します。

 移転の方法ごとに、向いている場面と気をつけたいことを表にしました。

※税額の計算方法や特例の要件は、個別の確認が必要です。

方法

向いている場面

気をつけたいこと

贈与

生きているうちに、医院の資産の名義を子に移しておきたい

贈与税、相続時精算課税を選ぶかどうか、亡くなる前の贈与の加算、継がない兄弟姉妹との釣り合い

売買

親に代金を残して引退後の資金にしたい。ほかの相続人との公平も保ちたい

売却する資産ごとに異なる所得税・消費税の扱い、適正な価格、子の購入資金と借入

貸付

土地・建物は親の名義のまま残し、賃料を引退後の収入にしたい(親子の生計が別の場合)

適正な賃料、生計が同じだと賃料が経費にならないこと、相続税の特例への影響、最終的に相続で誰が取得するか

相続

親の生活資金を優先し、資産を移す時期にこだわらない

相続税、小規模宅地等の特例、遺産分割と遺言

役員退職金(医療法人)

法人から、先代の引退後の資金を出したい

適正な金額、実質的な退任かどうか、法人の資金繰り、持分の評価への影響


 どれが有利かは、土地の評価額や家族構成、持分の有無で変わるので、個別に試算して確かめてください。

 親子の場合に特に気をつけたいのが、同居などで生計が同じ場合です。このとき親子の間で払う家賃や給与は、原則として経費にならず、受け取る側の収入にもなりません。家賃で親の引退後の収入をつくるつもりでも、生計が同じだとその形は使えません。また、親の土地を子の医院に貸すとき、家賃を取るか無償にするかで、将来の相続税の特例の扱いも変わります。家賃を決める前に一度試算しておくと安心です。

 この段階には、子が先に医院で働き始める期間も入れておきたいところです。副院長などとして1〜3年ほど一緒に診療し、患者さんやスタッフに顔を覚えてもらいます。実務の感覚では、承継後に患者さんが離れにくく、スタッフも受け入れやすくなります。必須ではありませんが、子にとっては転職の時期の話でもあります。生計が同じ親子の場合、この期間の子の給与を経費にするには事前の届出が必要です。承継後に親が子の医院を手伝う場合も、同じ点に注意が要ります。

 2〜3年前から決め始めるのは、時間をかけないと効かないものがあるからです。医療法人の役員退職金は、いつ出すかで法人の資金繰りが変わります。設備の更新と借入の返済は、承継の前後どちらに置くかで、先代と後継者のどちらに資金負担が出るかが変わります。借入やリース、保証の状況も、この段階で把握しておきます。借入金や個人保証、担保が残っている場合や、子が新たに借りる予定がある場合は、承継方法と資金計画の大枠が見えた段階で金融機関に相談します。個人診療所では、医院を子に譲っても、親名義の借入金が自動的に子へ移るわけではありません。子が引き受けるには金融機関の承諾が要り、実務上は子が新たに借りて親の借入金を返す形をとることもあります。医療法人では法人の借入金はそのまま残り、見直すのは旧理事長の個人保証や担保です。

 持分ありの医療法人が認定医療法人制度で持分なしへ移行する場合は、2029年12月31日までに厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。相続が先に起きて相続税の税額控除を使うなら、相続税の申告期限と2029年12月31日のいずれか早い日までです(国税庁No.4177、厚生労働省)。持分評価の今後は持分評価の見直し案、売却は売却の税金で扱っているので、よろしければご確認ください。


6か月前〜:手続を進める

 6か月前からは、期限や相手の承諾が要るものを確かめ、説明や登記の日程を組みます。一般的な無床の個人診療所の親子承継で、全国共通の主な事前期限として特に確認したいのは、次の2つです。

 1つ目は外来医師過多区域です。所在地が指定区域になっている場合だけ関係します。指定区域で無床診療所を新たに開設するときは、原則として開設の6か月前までに、都道府県知事への届出が要ります。個人診療所の開設者が親から子へ替わると、旧診療所の廃止と子の新規開設になるので、通常の生前承継ではこの届出の対象になります。親の死亡など予期しない承継は、事前届出の猶予対象となる場合があります。指定の有無は、都道府県の公表で確かめてください。無届・虚偽の届出は30万円以下の過料の対象です(外来医療ガイドライン)。

 2つ目は保険医療機関の遡及指定です。個人診療所の開設者が替わると、廃止と新規指定が必要になり、指定日が承継日より後になれば、その間は保険診療ができません。遡及指定は、厚生労働省の通知の3類型で判断されます。個人開設者の死亡による承継は第1類型。生前の承継で、所在地が同じ、親子など通知が列挙する関係、引継ぎ要件も満たす場合は、事前の予定届出が要らない第2類型です。親子だから自動的に当てはまるわけではありません。それ以外は第3類型で、原則として希望日の3か月前までに予定届出書を出し、事前相談をします(通知(訂正後)、手続案内)。

 スタッフへの説明も、この頃から具体的に考えます。個人診療所は使用者が替わるので、労働契約の承継には職員一人ひとりの個別の同意が要ります。医療法人は雇用主が同じで、雇用は原則続きます。ただ、早く話しすぎると噂が広がって中心のスタッフが辞めることもあるので、実務の感覚では、形が固まってから誰にいつ話すかを決めるのが現実的です。

 個人診療所では、開設者が替わることで手続が要るものがほかにもあります。借りている物件なら、賃貸借契約の名義変更に大家さんの承諾が要ります。生活保護・労災・公費負担医療の指定、予防接種・健診の委託契約、エックス線装置などについても、新規申請や変更・廃止の手続が必要になることがあります。扱いは制度や自治体で異なるため、各窓口に確認します。社会保険(加入している場合)と労働保険も、子の事業所としての手続が要ります。税務では、子の開業届と青色申告承認申請を出します。青色申告承認申請は、開業日や承継の事情によって期限が異なるので、承継日を決める段階で確認します。

 子の側で見落としやすいのが、承継直後の資金です。開設者が替わると、子の医院に保険診療の報酬が入金されるのは、診療した月の翌々月からです。患者さんは承継の翌日から変わらず来院しても、その間の給与や家賃、薬品代は子が先に払うことになるので、約2か月分の運転資金を用意しておきます。承継日より前の診療分は親の収入なので、入金口座とどちらの申告に載せるかも、あらかじめ分けておきます。

 医療法人では、社員総会・理事会の決議、理事長の変更登記、役員変更届、登記事項届の日程を先に決めておきます。個人診療所では、廃止届と開設届、保険医療機関の指定の申請が必要です。承継後は、退職金や賃料の金額と根拠を契約書や議事録に残し、借入や個人保証がある場合は、金融機関と協議した返済・借換え・保証見直しの状況まで確認します。


よくある質問

Q. 後継者も承継の時期も決まっていませんが、もう話し始めてよいですか?  A. はい。むしろ何も決まっていない今のほうが、落ち着いて話せます。5年前は手続の期限ではなく、話し始める目安です。継ぐか継がないかも含めて、まずはお互いの考えを聞いてみてください。

Q. 医院を継がない兄弟姉妹との公平は、どう考えればよいですか?  A. 医院の価値を一度見積もり、ほかの財産と並べて、相続全体で釣り合いを見るのが出発点です。生前に贈与しても、亡くなる前の一定期間の贈与は相続財産に加算されるため、贈ったから公平になるとは限りません。遺言で、医院の資産を誰に引き継ぐかを決めておく方法もあります(ほかの相続人の遺留分には配慮が要ります)。移し方ごとに個別に試算して、家族で話し合ってください。

Q. 従来あまり考えてこなかったのですが、仮に承継まで1年しかない場合、何を優先すればよいですか?  A. 承継日の前に期限が来る手続は限られますが、承諾や審査を待つものには時間がかかります。優先したいのは、時間のかかる次の3つです。1つ目は、評価と試算を、絞り込んででも行うことです。何も決めないまま相続を迎えると、選べる手がいちばん少なくなります。2つ目は、借入・個人保証・リース・賃貸借が残っている場合の、金融機関やリース会社、大家さんへの相談です。審査や承諾には時間がかかるので、後回しにしません。3つ目は、スタッフに誰がいつ話すかの段取りです。そのうえで個人診療所は、所在地が外来医師過多区域に指定されていないか、遡及指定の第2類型に当たるかを確認してください。指定区域なら原則6か月前、第3類型なら原則3か月前の届出が要ります。



まとめ

 承継の準備は、話し始めるのが5年前、承継方法を決めるのが2〜3年前、手続が6か月前からです。5年前は、決まっていなくても家族で話し始めます。2〜3年前は、評価と承継方法、税金と資金負担を、試算を見ながら決めます。6か月前からは、承継直前の手続を本格化させます。院長はまず希望時期と設備や借入の書き出しを、勤務医の方は親の引退意向を聞くところから始めてください。


執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)

※本記事は2026年10月10日時点の情報に基づきます。制度の詳細・最新の運用は、厚生労働省・国税庁・都道府県・管轄の地方厚生局の公表情報でご確認ください。個別の税務判断は、事案ごとに税理士へご相談ください。


参考文献


 
 
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