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持分なし医療法人への移行はいつ検討すればいい? 2029年末の認定期限と、決算書で一次診断する3つの要件

2 日前
読了時間: 9分

 持分なし医療法人への移行を、今すぐ決める必要はありません。ただ、相続税・贈与税の猶予や免除が受けられる「認定医療法人制度」を選択肢として残しておきたいなら、検討を始めるのは承継のときではなく、いまです。この制度を使うための厚生労働大臣の認定は2029年12月31日が期限で、承継の予定とは関係なく決まっているからです。

 なお、2029年末は持分なし医療法人への移行そのものの期限ではありません。あくまで、認定医療法人制度を使うための認定の期限です。理事長は「積み上げてきた法人の価値を手放すことになるのか」、後継者は「持分を相続しないと経営を継げないのか」が気になるところだと思います。その答えを出すための順番を、この記事で整理します。

この記事のポイント ● 認定医療法人制度の認定期限は、2029年12月31日となっており、現状延長されるかは未定です。相続が先に起きた場合は、相続税の申告期限と2029年末のいずれか早い日までに認定が必要です。 ● ご自身で制度利用が可能かを判断する場合は、直近事業年度の決算書と収入・資産の内訳、役員報酬の規程で、3つの要件を確かめることからスタートしてください。ただしこの3つを満たしても、自費診療の料金の基準などを含む9要件全体の確認が要ります。 ● 持分の処理(放棄・払戻し・基金拠出)にかかる税金と資金繰り、そして移行後6年間要件を守れるかで判断します。

① 認定医療法人制度の利用は、2029年末までに

 持分あり医療法人は、平成18年の医療法改正(平成19年4月1日施行)以降は新しく設立できなくなり、いまは経過措置医療法人と呼ばれています。一般に持分あり法人に生じ得るリスクとして、出資者が退社・死亡したときの払戻請求、相続人にかかる相続税、持分を放棄したときに他の出資者や法人にかかるみなし贈与課税の3つがあります。長く利益を積み上げてきた医療法人ほど、影響が大きくなりがちです。

 これらのリスクに備える方法の一つが、厚生労働大臣の認定を受けて持分なし医療法人へ移行する認定医療法人制度です。認定を受けた法人であれば、相続税・贈与税の納税猶予や免除の対象になります。認定を受けられるのは令和11年(2029年)12月31日までで、移行そのものは認定日から5年以内に完了させる必要があります(通常は認定の申請と移行の実行はセットでやります)。

 問題なのは、相続が先に起きてしまった場合です。この制度を活用する場合、認定の期限は相続税の申告期限(原則として、相続の開始を知った日の翌日から10か月)と2029年12月31日の、いずれか早い日とされています。2029年中に相続が起きれば、準備に使える時間は10か月より短くなります。その間に出資者の合意を取り、要件を整え、申請書類を作ることになります。申請から認定までは令和7年度の平均でおよそ3か月(手引書)ですが、これは申請書を出してからの日数です。実際は、要件を満たすために施策を実行することがほとんどであるため、相続が発生したタイミングで急に利用しようとしても、難しいケースもありえます。


② 最初の診断は、直近の決算書で3つの要件を見ること

 認定医療法人制度の適用を受けるために、医療法施行規則附則第57条の2第1項に定める9つの要件を満たす必要があります。そのうち、理事長がまずご自身で当たりをつけられるのが、決算書から確かめられる3つの要件です。確認いただくのは、直近終了した事業年度の決算書です。

 しかも要件は、認定のときだけ満たせばよいわけではありません。移行後6年経過するまで満たし続ける必要があります。途中で認定が取り消されたときの扱いは、移行の前か後かで変わります。移行前なら、出資者が受けていた相続税・贈与税の納税猶予が打ち切られ、猶予税額と利子税を納めることになる場合があります。移行のときに医療法人への贈与税の課税特例を使った法人が、移行後6年以内に認定を取り消されると、法人を個人とみなして贈与税が課されます。6年間守り続けられるかどうかも、申請の前に判断しておくべき点です。

 1つ目は、社会保険診療等の割合です。介護・助産・予防接種なども含めた社会保険診療等の収入が、医療保健業務の収入の80%を超えている必要があります。自費診療や物販の多い法人は、ここでつまずくことがあります。

 2つ目は、役員報酬です。理事・監事の報酬等について、民間事業者の役員報酬や従業員の給与、法人の経理状況などを踏まえ、不当に高額にならないよう上限を定めた支給基準(規程)を整え、提出することが求められます。役員退職慰労金も対象で、理事が職員として受け取る給与や賞与もあわせて見られます。決算書の役員報酬の額と、規程で定める上限が見合っているかを確かめてください。

 規程がない法人は、新たに作ることになります。ただ、認定のために報酬を一時的に動かすのは筋が違います。移行後6年間は要件を守り続けなければならないので、適正な報酬のまま続けられる水準で上限を決める必要があります。

 3つ目は、遊休財産額です。ざっくり言えば、診療に使っていない現預金や保険積立金などが、年間の事業費用より多すぎないかを見る要件です。正確には、総資産から本来業務・附帯業務に使う財産や減価償却引当特定預金などを除いた財産に、純資産÷総資産の割合を掛けて計算し、その額が本来業務の事業費用を超えないことが毎会計年度末に求められます。内部留保を現預金や保険で厚く積んできた法人は、ここを先に確かめてください。

そのほかの要件も確認が必要です ● 社員・役員など法人の関係者や、MS法人など株式会社等に特別の利益を与えないこと ● 自費患者への請求が、社会保険診療報酬と同じ基準で計算されていること ● 訪日外国人患者の料金が、保険と同じ基準で計算した額からその3倍までの範囲で、地域の標準的な料金を超えないこと ● 病院・診療所などの業務に係る経常的な収入(補助金を含む)が、同じ業務の経常的な費用の150%以内であること ● 法令違反や帳簿の隠ぺいなどの事実がないこと

 とくに自費の料金の要件は、自費診療の多いクリニックや歯科では見落とせません。料金を自由に決めている場合は、ここで認定の可否が分かれることがあります。MS法人との取引も、相場より高い賃借料などは特別の利益に当たり得るので、条件の見直しが必要になる場合があります(MS法人の基本はこちら)。家族中心の役員構成だからといって、それだけで認定が受けられないわけではありません。直すべきところを直せるかどうかが分かれ目で、その当てはめは決算書と定款を見ながら確認していきます。


③ 持分の処理と資金繰りで判断する

 持分の処理には3つの道があります。全額を放棄する、払戻しを受ける、一部を放棄して残りを基金として拠出する(基金拠出型)です。

 全額を放棄すると、その持分に基づく払戻しは受けられなくなり、財産としての権利はなくなります。

 払戻しを選ぶと、法人から現金が出ていくので、資金繰りの試算が必要です。また、受け取る出資者の側にも税金がかかります。払戻額が、その持分に対応する資本金等の額を超える場合、超える部分はみなし配当になり得ます。残りの部分も譲渡所得の計算が要るので、源泉徴収を含め、出資者ごとの取得価額と税引後の手取りを個別に試算します。

 基金拠出型は、持分の一部を基金として法人に残す方法です。出資者としては、基金とした部分だけ財産として残ります。また、一定の制約はありますが、法人から基金の返還を受けることができるため、払戻しよりも税効率がよいです。ただし、相続税の納税猶予を受けている場合、基金として残した部分に対応する猶予税額と利子税は納める必要があります。

 実際の承継で考えると、持分の整理と経営の承継は別の話です。持分なしへの移行で片付くのは、主に財産と税金の問題です。経営のほうは、社員や理事の構成を変えることが必要となります。

 優先して診断したほうがいいのは、持分の評価額が大きい法人、出資者が高齢だったり複数いたりする法人、2030年前後までに承継を予定している法人です。反対に、出資者が財産権の放棄に納得できない、払戻しをすると診療を続ける資金が足りなくなる、9要件を6年間守るのが難しい、という法人は、移行を前提にせず、持分ありのままの承継策と並べて比べることになります。


よくある質問

Q1.相続が起きた後でも、持分なし医療法人への移行は間に合いますか。  認定医療法人制度を使う場合、相続税の申告期限と2029年12月31日のいずれか早い日までに厚生労働大臣の認定を受ける必要があります。2029年中の相続では準備期間が10か月より短くなるため、事前の準備が重要です。

Q2.役員報酬の規程がないと、認定は受けられませんか。  役員報酬等が不当に高額にならないよう上限を定めた支給基準は、運営要件の一つです。規程がなければ整える必要があります。移行後6年間守り続けることが前提なので、認定のための一時的な調整ではなく、適正な報酬のまま運用できる上限を定めます。

Q3.持分を払い戻す場合、どんな点に注意が必要ですか。  払戻しは法人から資金が出るため、資金繰り試算が必須です。受け取る出資者側でも、持分に対応する資本金等の額を超える部分はみなし配当になり得て、残りも譲渡所得の計算が必要です。出資者ごとの税引後の手取りも試算します。



まとめ

 持分なし医療法人への移行は、今すぐ決める必要はありません。ただ、認定医療法人制度を選択肢として残すなら、承継を待たずに、2029年末の認定期限から逆算して診断と出資者の話し合いを始めてください。順番は、直近の決算書で3つの要件を一次診断し、9要件全体と6年間守れるかを確かめ、持分の処理ごとの税金と資金繰りを比べ、最後に経営の承継と申請の日程を決める、という流れです。ご相談の際は、定款、出資者名簿、社員・役員名簿、直近3期の決算書と申告書、承継の予定時期をご用意いただくと、持分の評価から資金繰り、経営の承継までまとめて確認できます。


執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)

※本記事は2026年10月13日時点の情報です。制度の適用可否は個別の事情により異なります。実際の判断は専門家にご相談ください。


参考文献


 
 
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