医院継承のとき、顧問税理士は変えるべきか?
更新日:8月28日
「先代の代から30年お世話になっている税理士さんだから、変えるという発想自体がなかった」。医院継承(事業承継)を終えた後継院長から、こんな声をよく聞きます。ただ話を伺っていくと、多くの方が迷っているのは業務の中身よりも、「この人とこれから何年もやっていけるか」という、もっと感覚的な部分だったりします。
クリニックの医院継承(事業承継)では、届出や手続きに気を取られがちで、「顧問税理士をどうするか」は後回しになりやすいテーマです。しかし経営者が代わるこのタイミングこそ、税理士との関係を点検できる数少ない機会でもあります。今回は、医院継承のときに顧問税理士を変えるべきか、それとも変えずに済ませられるか——その判断軸とタイミングについて整理します。
この記事のポイント ● 税理士選びの決め手は「相性」。記帳・決算・申告の中身は、どの事務所でも大きくは変わらない ● 先代に合っていた税理士が、自分にも合うとは限らない。 ● 税理士変更は焦らず決算期の区切りで。変えずに税理士のセカンドオピニオンだけ使う道もあります
① 医院継承の税理士選びで、一番大事なのは「相性」です
先代からの承継が決まると、多くの後継者は「今の税理士さんに、そのままお願いすればいい」と考えます。先代との付き合いが長く、院内の事情を知り尽くしているのですから、自然な流れではあります。ただ、税理士との契約は通常自動的に引き継がれるものであって、後継者自身が選び直したものではありません。「毎月の面談は電話で済ませる」「相談は決算前だけ」といった、先代の時代に築かれた慣行が、そのまま新院長の代にも引き継がれることになります。
記帳・決算・申告といった税務サービスの中身は、正直なところ、どのクリニックの税理士に頼んでもそう大きくは変わりません。税務署に正しい書類を提出することが目的のサービスだからです。差がつくのは、忙しい診療の合間に気兼ねなく相談できるか、保険診療の入金サイクルや自費診療とのバランス、診療報酬改定のたびに変わる実務まで、クリニックの現場を本当に分かってくれているかという「相性」です。表面的な人当たりの良さより、医療の現場を理解した上で伴走してくれるかどうかが本質です。
実際、「税理士を変えたいけれど、先代への義理立てで言い出せない」という声もよく聞きます。ですが医院継承は経営交代の正式な区切りですから、この機会に契約を見直すこと自体は不自然なことではありません。角が立つのが心配であれば、承継のタイミングで契約形態を切り替える旨を早めに伝えておくと、角が立ちにくくなります。
② 先代が求めていたものと、自分が求めるものは違います
相性の次に確かめたいのは、自分がこの税理士に何を求めるのか、です。先代の代から続く契約は、先代が求めていたものに合わせて形になっています。なので、一度契約を見直していただくとよいと考えます。
先代は保険診療中心の一人医師体制で満足していたが、後継者は分院展開や自費診療の拡大、法人化を考えているなど、求めるものが変われば、今の税理士で足りるかどうかも当然変わってきます。
税理士の立場からすると、税理士に期待したいいただきたいのは、次の2つだと考えております。一つは適切な情報提供をしてくれるか。もう一つは進捗管理(伴走支援)をしてくれるか)です。
具体的には、月次の資金繰りや患者数などのKPIの指標、持分の評価額や退職金、法人化のタイミングといった、数字を先生が比べて判断できる形で出してくれるのか。また、その意思決定をした後も、月次のMTGで、道筋どおり進んでいるかを一緒に見ていってくれることです。
材料と選択肢をもとに一緒に考え、院長が答えを出しやすい環境を整える。これが当事務所の付き合い方です。
見極めの手がかりに、今の税理士へこう聞いてみましょう。
「今期、賞与はどれくらい出せますか?」
「診療報酬改定の影響を、うちの数字で試算してもらえますか?」
「設備投資はいつ、どの方法でやったほうがいいですか?」
「期中ですべき節税は何かありますか?」
数字や選択肢がすぐに返ってくるか、言葉が濁るか——一緒に考えてくれる相手かどうかは、ここに表れます。
③ 税理士変更は、いつがいい? 変えずにセカンドオピニオンだけ使う手も
結論から言うと、税理士変更に適したタイミングは決算期の区切りです。会計データを一期分まるごと引き継げるので、期の途中で切り替えるより手続きがシンプルになり、記帳の重複や抜け漏れも起きにくくなります。
一方で、承継の直後は避けたい時期です。個人クリニックの親子承継では、税務署への廃業届・開業届の提出をはじめ、各種届出の切り替えが一時期に集中します(個人事業の開業届出・廃業届出等手続|国税庁)。ここに税理士変更の作業まで重ねると、事務作業が煩雑になり、思わぬ抜け漏れが生じかねません。承継そのものは、今の税理士のもとで一度乗り切ってしまう方が、実務としてはむしろ安全です。
むしろおすすめしたいのは、新院長として一度、自分で決算を回してみることです。半年から1年ほど今の税理士と付き合ってみて、「この人とこれから何年も続けられるか」を自分の目で確かめる。そのうえで、次の決算期を区切りに切り替える——このくらいの余裕を持って動いたほうが、判断を誤りません。
医院継承の場面でいま増えているのが、税理士のセカンドオピニオンという使い方です。持分あり医療法人の承継のように、承継そのものの設計が複雑なケースでは、今の顧問税理士との契約はそのまま残しつつ、出資持分の評価や退職金の設計といった承継の設計部分だけ、別の税理士にセカンドオピニオンとして関わってもらう選択肢があります。契約を丸ごと切り替える「税理士変更」ほどのハードルはなく、先代や今の税理士との関係を崩さずに済むのが利点です。「変えたいわけではないけれど、この設計だけは他の意見も聞いておきたい」という段階なら、まずセカンドオピニオンから試すのが現実的です。当事務所も、そうした形でのご相談を承っています。
まとめ
医院継承は、顧問税理士を見直す好機です。決め手になるのは「相性」と「自分が何を求めるか」の2つ。据え置くにせよ、税理士変更にせよ、まずはセカンドオピニオンから試すにせよ、この2つを一度点検し、変えるなら決算期の区切りで動くのが一番失敗しません。
執筆者:税理士 鈴木貴之(東京税理士会 上野支部・登録番号 第147721号)
※本記事は2026年7月時点の情報です。


